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2018-02-08 06:51
日米、文の北朝鮮傾斜にクギ
杉浦 正章
政治評論家
北朝鮮の金正恩がオリンピックをまるで“茶番ピック”にしようとしているかのようである。スポーツの祭典であるオリンピックの精神をはき違えて、金正恩は、ちゃらちゃらした“美女軍団”なる楽隊や応援団を大量に送り込み、衆目を集めて国威を発揚しようとしている。これにはまって、朝から晩まで一挙手一投足を報道しているのは日本の民放テレビと韓国のテレビだけだ。オリンピックの精神は、いかなる差別をも伴うことなく、友情、連帯、フェアプレーの精神をもって相互に理解しあう、平和でよりよい世界をつくることにある。ところが金正恩は、開会式前日8日に自国で行う軍事パレードも含めて、オリンピックを活用して、自らの存在感を世界に誇示しようとしている。韓国大統領文在寅は、完全に北朝鮮ペースにはめられ、オリンピックを北のプロパガンダの場として差し出すという愚挙に出た。首相・安倍晋三と米副大統領ペンスが文在寅の融和路線に警鐘を鳴らし、引き戻そうとしているのはもっともだ。
オリンピックの政治利用は、どの主催国も多かれ少なかれあるものだが、その突出した例が1936年ナチス政権下のベルリンオリンピックだ。ナチス政権は、オリンピックを利用して、平和的で寛容なドイツのイメージを作りだし、多数の外国人観客や報道記者を惑わせた。2週間の夏季オリンピック大会の開催中、アドルフ・ヒトラーはその人種差別主義、軍国主義の特性を隠蔽し、大半の観光客や報道陣はナチス政権が反ユダヤ人の看板を一時的に除去したことに気づかずにいた。ところがその本質は「優秀なドイツ市民がアーリア人文化の正当な継承者である」というナチスの人種的神話を推進するものであった。
そのヒトラーの「わが闘争」を愛読して幹部に配った金正恩が、国内で確立した全体主義的な統治の輪を、朝鮮半島全体に広げる野望を持っていることは言うまでもない。36年オリンピックはヒトラーを増長させ、終了後にユダヤ人迫害を直ちに進め、第二次世界大戦へとつながった。金正恩が何を考えているのかは不明だが、冬季五輪を最大限活用して自らの存在感を高めようとしていることは間違いない。日米韓による北朝鮮包囲網の突破がまず最大の課題であろうが、その一角は文から崩され兼ねない情勢である。まず北朝鮮制裁で韓国が独自に課している出入国の制限が崩された。なにも板門店を経由してバスで選手村に入ればよいものを、北朝鮮はわざわざ仰々しく陸路、空路、海路を活用して選手団・応援団を送った。海路を万景峰号を派遣してこじ開けたのだ。さらに7日午後、北朝鮮側は、金正恩の妹で朝鮮労働党中央委員会第1副部長の金与正(キム・ヨジョン)も五輪に出席させる方針を明らかにした。金与正は事実上のナンバー2で、あきらかに南北融和ムードを盛り上げて、日米韓の結束を崩す狙いがうかがえる。最高人民会議常任委員長の金永南(キム・ヨンナム)とともに、文在寅との会談などなんらかの首脳間の接触を試みようとする可能性がある。ペンスへの接触も狙う可能性もある。トランプの長女イバンカがオリンピック開会式に出席することから、金与正が接触する可能性もある。融和ムードを演出するためだ。
こうした北のペースにはまりつつあるかに見える左傾化大統領文在寅に対して、ブレーキをかけたのが安倍・ペンス会談だ。両者は7日、文の微笑み外交批判で一致した。両者は、北朝鮮に核開発などを放棄させるため最大限の圧力をかけていくことを確認した。日米には文が、オリンピックを突破口にして日米韓の分断を図ろうとする金正恩の意図を理解していないとの懸念と不信感がある。また両者は北朝鮮が非核化に向けた真摯(しんし)な意思と具体的な行動を示さないかぎり、意味のある対話は期待できないという認識で一致した。ペンスは、「アメリカは、最大かつ最も強力な内容の独自制裁措置をちかぢか発表する」と述べるとともに、北朝鮮を「地球上でもっとも独裁的で残虐な国」と表現、軍事行動を排除しない姿勢を示した。こうして、金正恩のみえすいた融和戦略は、日米首脳によってその本質が見抜かれ、「ほほ笑み外交」に惑わされつつある文をけん制し、日米対北朝鮮で“文抱き込み合戦”が展開されている形となっている。焦点は北がオリンピック終了以降までほほ笑み続けるかどうかだが、過去の例から言えば、一過性とみるべきだろう。やがて、金正恩の太った顔が青ざめるときが来る。
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