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2007-05-23 09:42
アジア安保協力会議を提唱する
内田忠男
名古屋外国語大学教授
いま各方面で検討されている東アジア共同体構想について私見を述べてみたい。まず、この東アジアという地域には、北朝鮮や中国など一党独裁の国家が存在しており、冷戦構造が今も残されている地域である。中国やベトナムは改革開放路線を進めることで国際社会への順応を図っており、現在の政治体制がさしたる障害にはならない、との説もあるが、楽観に過ぎるであろう。こうした政治システムは平時でなく異常な事態もしくは危機に直面した際に、国際社会の常識に基づく想定を超えた反応や行動を起こすものであり、その点は確と認識しておく必要がある。
現在構想されているのは、まず経済そして安保についての共同体を作り、多くの人々が米国の直接関与を排除する意向と聞いているが、率直に言って性急に過ぎるのではないか。そこで、東アジアが置かれている今日の状況からすると、冷戦時代に組織された全欧安保協力会議(CSCE、現在は欧州安保協力機構OSCE)のアジア版といった装置を形成することから始めるのが賢明と考える。
周知の通り、CSCEは冷戦最中の1972年に、全欧州の国家とアメリカ、カナダなどが参加して開かれ、国境不可侵などの安保10原則と、経済・科学分野の協力、人と情報の交流促進などを謳ったヘルシンキ宣言を採択した。これが、豊かで自由な西側の情報が、鉄のカーテンを超えて東側の市民たちにも伝わる大きなきっかけとなり、究極的に社会主義諸国の自壊作用を促す最大の要因になったと私は考えている。
東アジアは、民族、宗教、歴史、価値観の多様性に加えて、政治・経済のシステムの違い、経済の発展度のギャップが極めて激しい地域である。これを一つの価値観なり方向性でまとめ上げるなど、至難中の至難と言わざるを得ない。であるからには、域外の有力な国や機構も取り込んだ透明性の高い論議の中で、域内に争いの起きない環境を整備することから着手すべきである。
このようにして来るべきアジア安保協力会議(CSCA)には、アメリカ、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドはもとより、ロシアやEUなどにも加わってもらって、CSCE並みの広範な宣言を採択し、その条項を誠実に実現して行く。その過程の中で、加盟国の国内にもなにがしかの変化が起きるであろうし、アジアを取り巻く諸環境にも変化が生ずるはずである。日本政府には、CSCA実現への強力なイニシアティブを取ってもらいたい。共同体へ歩を進めるのは、それを待ってからでも決して遅くはないはずである。
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