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2018-04-26 16:38
深刻化するシリアの現状とその歴史を振り返る
山田 禎介
国際問題ジャーナリスト
日本では中東は常に遠い世界でしかない。資源エネルギー問題で初めて目覚めた世界といっても過言ではあるまい。現状シリアが深刻な状況であること、ある意味でこれはロシアが絡むのが主原因と言えば、諸先生方の非難の矢面に立たされるかもしれない。でも現状のロシアのシリア紛争介入と駐留に、プーチン路線による現地少数派の「シリア正教徒」(人口の10%)擁護があるのは、まごうことなき事実である。ロシア宗教戦略の一端がシリア紛争の場でも起っている。イスラム教徒が人口の90%のシリア(現アサド大統領の父、先代大統領は冷戦時代に旧ソ連で学んだパイロット)において、シリア人の多くが冷戦時のキューバの例と同じく、旧ソ連に大量に留学し、結婚して家族を連れ帰った。おまけにシリアはキューバと同じくロシア憧れの海洋国家でもある。さらにロシア正教会の親類筋に当たるのがシリア正教会なのは言うまでもない。
ロシア正教が復活させたプーチンは、正教会ルートによる相似性を、地中海戦略の要衝シリアという国に求めているように映る。ロシア正教会自身がシリアへの介入を要求、支持しているとする報道も一部にある。プーチン大統領は政権保持以来、帝政ロシアからの伝統、ロシア正教擁護を再現した。その一端が現状シリアへの軍事プレゼンスと並行した宗教支援だ。シリアは、中東での大規模反政府民主化運動 「アラブの春」(2010年~2012年)で、権益拠点リビアを失ったロシアの代替地との見方もあるが、それは当たらないと思う。ロシアにとってシリアは地中海への橋頭保。近年は黒海艦隊の地中海進出の足場の海軍基地を租借している。そして現状はアサド政権支援で中東を睥睨(へいげい)する「現代版黒海艦隊」たるロシア空軍とミサイル部隊を置いている。
こうした旧ソ連の宗教を背景にした国際紛争には前例がある。スターリン時代の二次大戦中、旧ソ連はロシア正教の本家筋のギリシャ正教と結ぼうとし、対ナチ・パルチザンに人員、資金、兵器を供給した。英チャーチルがスターリンと協定し(1944年)、中東欧を旧ソ連の支配下に置くことを認め、ギリシャは英国の権益下に置かれた。だが戦後も共産主義勢力との内戦が続き、結局ギリシャは米国の支配下に移され、そののち仇敵トルコと一緒に北大西洋条約機構(NATO)に組み込まれた。
シリアの隣国、この地中海への喉元国家群では、幾次にわたる「レバノン内戦」を皆がすでに忘れている。東西世界の十字路、中東のパリと言われたレバノンのベイルートが灰燼に帰していたのは実に最近までである。筆者が中東を初めて意識した出来事は、米国アイゼンハワー政権のレバノン出兵(1958年)である。ここでも少数派キリスト教徒のシャムーン政権支援に米国が介入、米海兵隊多数が上陸した。戦後間もない時代で国際情報は映画館での週替わりニュース等で報じられた。ちなみに当時の銀幕スポーツニュースの話題は、日本でようやく人気浮上、「そだねぇー」のカーリングだった。カーリングは米欧で古くから一般的。歴史にはかくも悲喜劇併せた場面が含まれるものだ。
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