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2018-04-27 10:09
中国の脅威に目を向けよ
鍋嶋 敬三
評論家
北朝鮮の核・ミサイル危機の陰に隠れているが、北の後ろ盾になっている中国の軍事的脅威が強まっていることから目を離してはならない。米国は国家安全保障戦略(2017年12月)で中国をロシアとともに「現状変更勢力」と規定した。30年後に米国と並ぶ軍事大国を目指す中国は2018年度国防予算を8.1%増とし、軍拡路線をさらに加速している。日本を含む主要7カ国(G7)外相会合の共同声明(4月23日)は北朝鮮の非核化のため最大限の圧力維持を確認する一方、中国の海洋進出を念頭に東シナ海、南シナ海情勢に懸念を示し、大規模な埋め立てや軍事利用など「現状を変更する一方的な行動に強く反対」を表明した。日中関係は外相会談、ハイレベル経済対話と関係改善に動き出しているが、中国は軍事的圧力を弱めるどころか、多様化、高度化しているのが実態だ。領海侵入が続く尖閣諸島(東シナ海)の実効支配が失われないよう自ら主権を守り抜く自前の防衛体制の強化が喫緊の課題である。
防衛省の発表(4月21日)によれば、中国の空母「遼寧」など7隻の艦隊が沖縄本島と宮古島の間を抜け太平洋から東シナ海に入った。1月には攻撃型原子力潜水艦が尖閣諸島周辺の接続水域を航行した。台湾周辺でも空母の演習、陸軍ヘリの実弾射撃訓練、3日連続の爆撃機飛行が確認されている。4月中旬には海南島沖の南シナ海で「史上最大規模」という空母を中心とする大軍事演習が実施され、軍トップでもある習近平国家主席が観艦式に臨んだ。6カ国・地域が領有権紛争にかかわる南シナ海ではベトナム漁船2隻が中国船の攻撃で沈没した。この種の事件は過去に何回も起きている。中国がスプラトリー(中国名・南沙)諸島に造成した人工島には電波妨害装置や3000メートル級滑走路などを整備、軍用機が駐機している写真がフィリピン紙に掲載された。南シナ海の軍事化はとどまるところを知らない。
東シナ海(尖閣諸島)ー台湾ー南シナ海に連なる脅威を一体としてとらえることが大事である。2012年8月の尖閣・魚釣島事件。当時の民主党政権(野田佳彦首相)は不法上陸して逮捕した香港の活動家を裁判にかけずに強制送還した。尖閣の領有権を主張する中国の「即時、無条件釈放」の要求を呑んだのだ。中国との摩擦を避けようとした民主党政権の戦略的大失策だった。中国はフィリピンからの米軍撤退(1992年)による西太平洋の「力の空白」に乗じて南シナ海の実効支配の領域を徐々に広げてきた。魚釣島事件は領土主権に対する日本政府の姿勢を試す絶好の機会と中国には映ったに違いない。筆者は当時「南シナ海と同根の尖閣不法上陸」と題する「百花斉放」(N0.2384)欄で警鐘を鳴らした。中国による尖閣奪取作戦については、657ページの大冊である米中経済・安全保障調査委員会の議会報告書(2017年11月)で詳述されている。
「東シナ海(尖閣諸島)緊急事態作戦」の中で作戦のシナリオとして(1)海上執行型、(2)軍事演習偽装型、(3)台湾侵攻型の三つがある。(1)は中国海警の船が日本の巡視船を追い払い島を支配する。これは2012年にフィリピンのスカーボロー礁を占拠したのと同じパターンだ。失敗した場合は事件を起こして軍事作戦を正当化する。(2)は人民解放軍の軍事演習を装って素早く島を占拠する。(3)は各種兵力を動員して水陸両用作戦で尖閣を占領する。いったん中国の手に落ちれば日本の実効支配が完全に失われる。米国は尖閣防衛のために日米安全保障条約第5条の適用を何度も公言しているが、あくまでも日本の施政権下にあることが前提だ。米国の領土主権に関する立場は、紛争当事国のどちらの肩も持たないのが原則である。中国に奪取された無人島を取り戻すために、米軍人の犠牲が前提の対中軍事衝突まで覚悟して米軍を投入するのかどうか。フィリピン場合も米比相互防衛条約の適用に米国は消極姿勢で現実に米軍は介入していない。日本は地域紛争の実態をよく見極めて対処する必要がある。
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