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2018-05-11 12:03
東アジア秩序再調整の幕開け
鍋嶋 敬三
評論家
6月12日にシンガポールで開かれる史上初の米朝首脳会談は第二次大戦後70余年にわたる東アジア国際秩序の再調整の始まりとして歴史に記録されるだろう。D.トランプ米大統領と北朝鮮の金正恩労働党委員長の会談の行方はアジアのみならず転換期にある世界情勢に大きな影響を与える。年初以来の南北朝鮮、米国、中国さらには日本を含めた諸国間の目まぐるしい駆け引きは大きな再調整の一コマに過ぎない。2ヶ月足らずという驚くほどの短期間に、金氏の二度の訪中と習近平国家主席との会談、M.ポンペイオ国務長官の二度の訪中シャトル外交と米国人3人の解放、これを受けた日米電話首脳会談(5月10日)はそのための環境作りであり、序章である。5月9日東京で2年半ぶりに開かれた日中韓首脳会議(サミット)もまた摩擦に明け暮れた日中、日韓、韓中という3カ国間の関係仕切り直しである。その延長線上に日朝関係の正常化という課題が待ち受けている。
日中韓首脳会議の主なテーマは北朝鮮の核廃棄問題であった。国連安全保障理事会の制裁決議に従い、「核を含む大量破壊兵器の完全、検証可能で不可逆的な廃棄」に向けた協力で3カ国が一致した(日本側発表)。しかし、廃棄に向けた北朝鮮に対する圧力では3カ国間の溝は否定できない。北朝鮮の後ろ盾になっている中国は「段階的な同時並行的な措置」という北の主張を擁護している。対北融和路線を取る韓国は強硬な圧力には抵抗がある。サミットの場を利用した中国の李克強首相と韓国の文在寅大統領は2国間首脳会談で非核化を前提にした対北朝鮮の経済協力の検討で一致した。日本との2国間の懸案も未解決のままである。尖閣諸島(日中)や慰安婦問題(日韓)など、歴史問題を絡めた対日外交のトゲは依然として残されたままであり、今後も摩擦、対立の種となり続けるだろう。それでも、3カ国間の連携を強調したのは「北の非核化」という大きな主題を巡る米朝関係の行方がまだ見通せない中で、3カ国の関係をひとまず安定させる必要があったからだ。日、中、韓それぞれに異なる思惑を秘めた「呉越同舟」であった。
日中韓関係の安定は米国外交にとっても好ましい影響がある。同盟国の日本が中国や韓国と対立関係を続けていては米国の朝鮮半島はじめアジア政策の展開に悪影響が出る。これまで事実そうであった。特に同盟国・韓国の対日摩擦は弾道ミサイル迎撃システムの運用など軍事機密情報の共有への支障など米国の軍事戦略にも影響してきた。中国にとっては、日本との関係安定によって対米外交上のメリットが大きい。トランプ政権による対中関税引き上げなどの経済制裁措置は貿易戦争への危険をはらみ、中国は防戦に追われている。サミットで「自由貿易体制の推進」で一致したが、保護主義反対を正面に掲げてトランプ政権をけん制する格好の場とする思惑が中国にはあった。
北朝鮮の「完全、検証可能で不可逆的な非核化」が実現すれば、米朝関係正常化、将来の朝鮮半島の統一につながる可能性が生まれ、北東アジアにおける日本、中国、米国の大国関係を軸とするアジアの国際秩序を大きく左右する。21世紀の歴史に残る「世界的な事件」になり得る。現在はその過程が日々刻まれているのである。各国の指導者、特に党利党略に明け暮れる日本の与野党国会議員に望みたいのは、国内政治上の思惑も含めた外交、安全保障の課題としての核やミサイル、拉致問題の解決ということだけではなく、世界史的な展望に立ったグローバルな観点からの取り組みである。日本にとって朝鮮半島はどのような意味を持つのかを深く考え、日本の国益に照らして20~30年後を見据えて戦略を構築する心構えである。そのような戦略に基づいて取り組む姿勢と遂行力がなければ、場当たり的な後追い外交に堕し、21世紀における「アジアの新しい秩序の主体的な担い手としての日本」という影響力のある国家の地位は獲得できないであろう。
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