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2018-05-25 06:36
米朝会談中止の背景を探る
杉浦 正章
政治評論家
世紀の米朝会談が流れた。トランプが6月12日の会談予定を中止した。その背景には韓国大統領文在寅のトランプへのミスリードがあったようだ。経緯を見れば、まず22日の米韓首脳会談に先立つ米韓調整で急速にトランプと金正恩との会談へのムードが盛り上がった。文が“垂涎の話し”を伝えたからに違いない。ところが北の対米強硬路線は変化の兆しを見せず、トランプは文在寅に対し電話で「なぜ、私に伝えた個人的な確信(assurance)と北朝鮮の公式談話内容は相反するのか」と詰問している。従ってトランプと文の会談は文の言い訳で、相当気まずいものとなったようだ。これを裏付けるようにニューヨークタイムズ(NYT)は20日、「トランプ米大統領がかけた電話は文在寅韓国大統領の訪米のわずか3日前だった」とし「これは文大統領がワシントンに来るまで待てないという、トランプ大統領の不満(discomfort)を表しているという解釈が米政府で出ている」と報じた。 要するに、トランプは韓国から伝え聞いた北朝鮮の非核化交渉の意志を信じていたが、違う状況へと展開し、韓国の「仲裁外交」が失敗したと言うことだ。
トランプは金正恩に送った書簡で6月12日の会談断念の理由について「会談を楽しみにしていたが残念なことに北朝鮮の最近の声明で示されている怒りや敵意を受けて私は現時点で会談を開くことは適切でないと感じた」と述べた。トランプが会談を断念した理由をもう一つ挙げれば、何と言っても水面下の交渉で米国の北に対する非核化要求の内容が極めて厳しかったことが挙げられる。これが北を硬化させたことにあるのだろう。また補佐官ボルトンが北の非核化でカダフィ殺害に至る「リビア方式」に言及したが、金正恩は自分もカダフィと同様の運命をたどりかねないと感じて拒絶反応を示したのだろう。北朝鮮外務省第1次官の金桂冠は16日「我が国は大国に国を丸ごと任せ悲惨な末路を迎えたリビアやイラクではない」として、「リビアモデル」とこれに言及したボルトン補佐官に強い拒否感を示している。
この発言に対してトランプは、怒りをあらわにして「このまま会談をやってもいいのか」と周辺に漏らすに至った。副大統領ペンスも「トランプ大統領を手玉に取るような行動は大きな過ちとなる。会談で大統領が席を立つ可能生もある」と会談決裂の可能性まで示唆した。しかし北の“挑発”発言は止まらず、外務省で対米交渉を担当する次官崔善姫は公然とペンスを批判「米国問題に携わる者として、ペンス副大統領の口からそのように無知でばかげた発言が飛び出したことに驚きを禁じ得ない」と延べた。加えて「我が国は米国にこれまで経験も想像すらもしたことのない恐ろしい悲劇を味わわせる可能性がある」とすごんだ。「米国は『核対核の対決』で北朝鮮と相まみえることになる」ともまくしたてた。この崔善姫発言は米朝首脳会談の中止を改めて確定的にしたものと言えよう。一方、日本政府には早くから会談の実現性に疑問を持つ空気が強かった。外相河野太郎は「条件が整わないなら米朝会談をする意味がない」と述べると共に「会談をすることが目的ではなく、北朝鮮の核、ミサイル、拉致問題の解決が究極の目的」と日本の立場を強調している。官房副長官野上浩太郎は、「トランプ大統領が米朝首脳会談延期の可能性に言及したことは北朝鮮の具体的行動を引き出すためのもの」と分析している。
こうして6月12日の会談は実現しない方向が定まったが、トランプが完全に断念したかというとそうでもなさそうである。トランプは「今は適切ではない」と述べており、望みを捨てていないのだろう。とりわけトランプの反移民政策やロシアとの不透明な関係への不満から野党・民主党に追い風が吹いている秋の中間選挙をひかえて、北との和解は大きなプラス材料になる。トランプは北への圧力を維持しつつ、秋までに会談実現に向けてのアヒルの水かきが続くのだろう。トランプが北に求める非核化について「直ちに完了してほしいが、段階的に行う必要が少しあるかもしれない。段階的でも迅速に行うべきだ」と述べたのは、北への呼び水の一環であろう。
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