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2018-06-25 10:53
秩序破壊に暴走するトランプ外交
鍋嶋 敬三
評論家
「米国第一主義」の米トランプ外交が任期半ばの中間選挙(11月)に向け暴走のスピードを上げている。世界の安定と平和維持の要となってきた西側同盟関係にきしみを生じさせ、不公正貿易を正すとして制裁関税を課しては報復を招く泥仕合が止まらない。国際協定や制度から一方的に離脱してリベラルな国際秩序を自ら破壊している。トランプ外交の原理は長期的展望に立つ戦略に基づくものというよりも安全保障も国際経済もカネの尺度で判断し、個々の取引が米国の国益にかなうかどうかである。その外交展開の最大の被害者は同盟国と米国の消費者であり、勝者は米国と覇権を争う中国に外ならない。
「歴史的な」米朝首脳会談(6月12日)を終えたD.トランプ米大統領は記者会見で恒例の米韓合同軍事演習の中止を発表した。韓国には寝耳に水だったろう。その理由として挙げたのが、北朝鮮に対して「非常に挑発的だから」であり、中止によって「莫大なカネが節約できる」からであった。「非核化」の見返りのないまま、北朝鮮にアメを先に提供した。「非核化」の交渉が米国の思惑通りに進まないからといって演習を再開すれば、北は「米国の新たな挑発」と攻撃し交渉に応じる対価の要求をつり上げるだろう。これは北朝鮮の常套手段である。トランプ氏は二重取りの餌をまいたに等しい。「非核化」に伴う米朝関係正常化においても日本や韓国を当てにした対北援助の姿勢を示している。「非核化」の工程表も期限も全く不明のまま、大量破壊兵器やミサイルで武装する北朝鮮が相手である。トランプ大統領は日本や韓国という最も重要な同盟国との関係にきしみを生じさせないよう特別な配慮を払わなければならない。それが米国自身の戦略的な利益にかなうからである。
トランプ政権が3月23日に鉄鋼やアルミ製品の輸入品に高率の関税を課すと発表してから3ヶ月。欧州連合(EU)やカナダ、メキシコ、中国、インドなどが各種の米国からの輸入品に報復の追加関税を表明。日本も世界貿易機関(WTO)に対抗関税の準備を通知した。トランプ大統領は6月18日、知的財産権の侵害を理由に2000億ドル(約22兆円)相当の中国製品に10%の追加関税の検討を発表、中国側も即時、報復措置を表明した。6月初旬、カナダでの主要国(G7)首脳会議は日欧と米国の対立が激化、先進国の結束の乱れが露わになった。これは中国やクリミア併合で西側から制裁を受けているロシアを喜ばせるだけだ。新興国だけでなく先進国も巻き込んだ貿易戦争はリーマンショック後、ようやく回復してきた世界経済に深刻な打撃を与えることは必至である。特に世界第一と第二の経済大国である米中両国の対立激化がもたらす影響は計り知れない。
トランプ外交は国際的な機構や制度にも破壊力を加えている。大統領就任時の2017年1月の環太平洋連携協定(TPP)離脱宣言に始まって、気候変動の「パリ協定」、ユネスコ、イラン核合意そして6月の国連人権理事会からの離脱表明と立て続けである。米国が第二次世界大戦後、欧州の先進諸国とも協力して築き上げてきたリベラルな国際秩序が危機に瀕している。人権理事会からの脱退について中国は「国際人権事業の健全な発展のために貢献する」(外務省報道官)と見得を切った。チベットなど少数民族の容赦ない圧迫、人権活動家に対する弾圧を続ける国が口にするのは笑止千万という他はない。中国はトランプ政権の保護貿易主義に対しても「自由貿易の旗振り役」をアピールした。トランプ大統領の選挙対策最優先の「米国第一主義」が世界の中で米国の孤立を招いている。自ら失点を差し出すオウンゴールが続けば、待っているのはトランプ氏が主張する「偉大なアメリカ」ではなく、自由世界のリーダー自滅への道である。
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