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2018-09-10 09:55
疑問符が付く安倍対露外交
鍋嶋 敬三
評論家
ロシアのV.プーチン氏が3月の大統領選挙で圧勝、4期目に入り2024年までの長期政権になる。同氏にとって米国との冷戦に敗れた結果のソ連邦の崩壊がトラウマである。ロシアの民族主義に訴えた「失地回復」をうたうところは、中国の習近平国家主席の「中華民族の再興」に通じるものがある。そのプーチン外交に対する欧米からの批判は実に厳しい。主要7カ国(G7)外相会合(4月)はルールに基づく国際システムを守らないロシアの「悪行」を列挙して非難する共同声明を出した。ウクライナ南部クリミア半島の併合、英国での神経剤を使った元ロシアスパイ暗殺未遂事件、シリアでの化学兵器使用疑惑の調査に対する国連安全保障理事会での拒否権行使などだ。その後も3年前のウクライナ上空でのマレーシア航空機撃墜事件がロシア軍ミサイルによるものとオランダなど5カ国共同チームが発表(5月)、7月には米連邦大陪審が米大統領選挙にサイバー攻撃で介入した諜報機関であるロシア軍参謀本部情報総局(GRU)の12人を起訴した。
このようなロシアに対して安倍晋三首相の姿勢には大きな疑問符が付く。暗殺未遂事件に対して米欧諸国は一斉にロシア外交官の国外追放、領事館の閉鎖やロシア資産の凍結などの制裁措置を科した。しかし、G7の中で日本だけが制裁に同調しなかったことは、ロシアの行動を黙認したと受け取られかねない。6月のG7首脳会合では外相会合の共同声明を再確認、ロシアに脅かされているウクライナの主権と独立を擁護し、必要ならさらなる「制限的な措置を取る」ことを首脳宣言で明確にした。一方で、トランプ米大統領がロシアの「G8復帰」を口にした。安倍首相は記者会見で「ロシアの建設的関与も必要だ」と首脳宣言とは方向の違う発言をしている。
ロシアはクリミア併合によって2015年以降G8から追放された。安倍氏がトランプ氏のロシア復帰論に反対せず、「ロシアの関与」に言及することはロシアにも欧米にも誤ったシグナルを送ることになる。首相は「プーチン大統領との深い信頼関係の下」、北方領土問題を解決して日ロ平和条約を締結する方針を示してきた。北方4島での共同経済活動によって信頼関係を深める図式を描いているようだが、ロシア側は「ロシアの法律の下で」との方針を変えることはなかった。21回目となった5月26日の首脳会談で安倍首相は平和条約交渉について「着実に前進する決意を2人で新たにした」と述べたが、プーチン氏は「両国民に受け入れられる解決策を辛抱強く探す」と全くかみ合わないのだ。首相は「信頼関係」を頼りに打開を試みるが、現実は信頼を裏切るロシアの行動が目に余るものがある。安倍氏の対露外交はプーチン氏への「片思い」で空回りしているのではないか?
9月10日予定のウラジオストクでの首脳会談を前にロシアは択捉島で対日戦勝記念式典を開き、軍艦や軍用機を動員して日本をけん制した。平成30年版防衛白書は地対艦ミサイルの配備、択捉島空港の軍民共用化など北方領土での軍事活動の活発化を指摘した。防衛省が計画している地上配備型ミサイル迎撃システム「イージスアショア」もロシアは非難している。自らも核戦力の拡充に努める「力の信奉者」のプーチン大統領は第二次大戦終戦後にどさくさに紛れて犠牲も払わずに奪取した北方領土を返すほど甘くはないであろう。安倍首相は欧州との関係強化に乗り出し、欧州連合(EU)と経済連携協定(EPA)を締結、北大西洋条約機構(NATO)への日本政府代表部設置などの実績を上げてきた。その欧州にとって「プーチンのロシア」は最も危険な安全保障上の存在であるからこそ、厳しい対露G7宣言が出たのである。日本国の指導者である安倍氏の対露外交が政権維持の利益になるとしても、日本と同盟、友邦関係にある米欧から日本に対する疑惑が深まるなら、国家としての損失を招く「利益相反」になりかねない。
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