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2018-09-28 06:39
トランプのごり押しに手をこまねく必要はない
杉浦 正章
政治評論家
「どうしてくれる」と片肌脱いで開き直っているトランプの姿はまるで超大国ヤクザである。首相・安倍晋三との会談で「2国間交渉」をもぎ取って、直面する中間選挙ばかりか2020年の大統領選まで有利に運ぼうとしているかに見える。トランプのグローバリズムへの拒絶反応は、選挙ばかりに目を奪われる独善的な米大統領の姿を鮮明にさせ、歴代大統領が大切にしてきた世界のリーダーとしての信望をかなぐり捨てた姿を浮かび上がらせた。日本はEPA、TPP11の発効を急ぐ必要がある。米紙ワシントン・ポストは「トランプは世界の笑いものになった」との識者のコラムを掲載した。トランプが25日の国連演説の冒頭で「2年足らずの間に、我が政権は米国史上かつてないほど多くのことを成し遂げてきた」と自賛すると、会場の各国首脳らからは失笑が漏れた。まるで成金が金歯を自慢するような演説だからだ。さすがのトランプもしまったと思ったのか「こんな反応は想像していなかったが、まあいいだろう」と胸を張り、会場のさらなる冷笑を生んだ。
国連憲章の基本を流れる精神はグローバリズムだが、トランプは臆面もなく「我々はグローバリズムのイデオロギーを拒絶し、愛国主義を尊重する。モンロー主義が我が国の公式な政策だ」と言ってのけた。歴代大統領の外交方針はおおむね独善的なモンロー主義の否定から始まったものだ。米国の外交主流派はこの方針採用をトランプに進言したが、トランプは臆面もなく無視したといわれる。演説の最中大統領補佐官ジョン・ケリーが「オー、ノー!」とばかりに片手で顔を覆ってうつむいていた。その写真が評判になり、ソーシャルメディアでは「全てを物語っている」など絶妙なコメントが相次いだ。各国首脳が黙っているわけがなく、仏大統領マクロンは「身勝手な主権を振り回し、他国を攻撃する国家主義を我々は目撃している」と手厳しく批判。国連事務総長グテーレスは演説で、トランプを名指しこそしなかったものの、「世界が20世紀史の、特に1930年代の教訓を無視して再び大衆主義と孤立主義の道を突き進み、またしても世界的な紛争に転落していく危険がある」と警告した。2016年の大統領選挙でトランプと争ったクリントンも、「トランプ大統領の発言は危険だ」と警告した。まさに藪を突いて蛇を出し、四面楚歌に導いたのがトランプ演説であった。
多国間貿易交渉の枠組みを重視してきた日本に対しても、トランプは2国間交渉で譲歩を迫った。結局安倍との首脳会談ではとりあえず2国間の交渉に入ることで合意した。日本はこれまで環太平洋経済連携協定(TPP)への米国の復帰を求めてきた。2国間交渉だと米国に有利となるとの判断が背景にあったためだ。しかしトランプは日本の対米貿易黒字の6─7割を占める自動車・同部品に目を付けており、日本側に高関税や輸出数量規制を突きつけたようだ。このため日本側は交渉に入らざるを得ないと判断に至った。当然ながら首脳会談では交渉中は、輸入車への高関税を日本に対してはかけないことで合意した。
ただ、米国が折に触れて自動車への関税をほのめかし、対日交渉を有利に運ぼうとすることは確実であろう。このためこの際日本は対米追随だけでなく、トランプの「米国第一主義」に対抗するグローバリズムの旗を欧州やアジア諸国と共に掲げる必要に迫られている。既に進展している豪州などとのTPP11の発効を来年早期に達成する必要があるのではないか。世界GDPの13%、域内人口5億人をカバーし、日本にとっては輸出や海外展開の環境が整い、消費者にとっても食品値下げなどの恩恵がある。また欧州との経済連携協定(EPA)の発効も急ぐべきだ。自由貿易を尊重する国々の協力は、米国内の孤立化反対論やマスコミを勢いづけ、変化へと導く有効な手段となるに違いない。
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