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2018-12-05 16:39
北方領土交渉への過度の期待は禁物
飯島 一孝
ジャーナリスト
日露間の懸案である北方領土問題をめぐり、安倍首相とプーチン大統領は12月1日の会談で、今後の交渉の担当者などの人的枠組みを決めた。これにより、領土交渉は北方四島のうち、「歯舞・色丹の2島返還プラスアルファ」をベースに本格的に進められることになった。このことは、戦後自民党政権が主張し続けてきた北方四島返還の旗をおろし、最大限2島返還と残る国後・択捉2島の共同経済活動で決着をつけようということになる。ただし、これによって2島が日本に帰ってくると考えるのは早計である。プーチン大統領は一度も島を返還するとは言っていない。そればかりか、「島の主権は今後の交渉次第」と常に釘を刺しているからだ。
そもそも両首脳は11月14日の会談で「日ソ共同宣言(1956年)を基礎に交渉を加速させることで一致した」と日本側は発表しているが、ロシア側は「加速」ではなく、「活性化させる」という表現を用いているという。この表現の微妙な違いに両首脳の思いが図らずも見え隠れしている。安倍首相としては自分の任期中に決着をつけたいという思いが強く、こうした前のめりの表現になったのだろう。一方、プーチン大統領とすれば、ウクライナ問題で西側の反発が再び強まっている時期だけに、日本側を北方領土問題でロシア側に引き止めておきたいという戦略的発想があるからに違いない。大統領のこうした“したたかさ”を忘れてはならない。
もう一つは、ロシアが最近、米国との対立を強めており、核兵器体制を強化しようとしている点である。ロシアの対米核抑止力を左右するオホーツク海への出入り口にある千島列島を簡単に返還することは考えられない。もちろん、日本側に日米同盟を破棄するという選択肢があれば、ロシア側も検討するだろうが、安倍政権にはそういう選択肢はあり得ないだろう。もし、安倍政権がそれを考えているとしても、米国側が直ちに認めるわけがない。そう考えれば、安部首相の本心は任期内の決着というより、本格的な交渉をしている状態を継続することのように思えてくる。安倍首相の最大の目標だった憲法改正が難しくなった今、残るは北方領土しかないという思いがあるのではないだろうか。首相個人の人気維持、あるいは任期の期限切れに起きるレームダック化を防ぐために領土交渉が使われるとすれば、国民にはまたしても裏切られたという思いが残るだろう。
もし、首相が本気で北方領土問題を解決しようというのであれば、きちんと国民に交渉経過を説明し、理解を求めるべきではないか。それを曖昧にしたまま、国民の頭越しに領土交渉の決着を急げば、国家百年の計を危うくしかねない。安倍首相が有終の美を飾りたいと心底願うなら、国民に対してもっと謙虚になるべきだ。
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