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2019-01-25 12:05
新次元のPublic Diplomacy積極展開を
鍋嶋 敬三
評論家
「Public Diplomacy の戦略的重要性を認識せよ」の題で本欄に書いたのは6年半前のことである(e-論壇「百花斉放」no.2539)。この間に国際情勢は米国の力の低下、中国の大国化、ロシアによるクリミア併合など地政学的な変化が生じた。日本の対外関係では尖閣諸島に対する中国の執拗な領海侵犯、ロシアとの北方領土返還と平和条約交渉、韓国とは竹島問題のほかに元慰安婦問題、元「徴用工」訴訟に加え、2018年12月の韓国駆逐艦による海上自衛隊機に対する火器管制レーダー照射事件で日韓関係は1965年の国交正常化以来最悪の状態だ。3月1日には朝鮮独立運動の100周年を控え、反日運動の高まりが予想される。歴史戦の様相がますます強まるだろう。
パブリック・ディプロマシーとは外交活動の一部として文化、教育交流、広報を通じて相手国側のイメージを高めて外交目標の推進に役立たせるというのが伝統的な考え方だ。しかし、米国の南カリフォルニア大学パブリック・ディプロマシー・センターによれば、2001年の9/11同時テロ事件以来「新しい広義の概念」が出てきたとされる。国際関係における非政府組織(NGO)など非国家主体(non-state actors)が関与する動きが現れた。情報が瞬時に世界中に拡散するソーシアル・ネットワーク・サービスなど新しいメディアと通信技術の発達で力を与えられたこれらの組織が「国際政治における役割と正統性を高めてきた」ためだとされる。
日本にとっても、国家間外交の枠を超えた国際的な機関や組織との「付き合い」に悩まされることが多い。日本政府は2018年12月、国際捕鯨委員会(IWC)からの脱退を通告した。スイスやオーストリアなどの内陸国や捕鯨の実績が全くない国々による鯨保護一辺倒の「反捕鯨運動」組織に愛想を尽かしたからである。国連の旧人権委員会も特別報告者クマラスワミ報告(1996年)など慰安婦問題での事実に基づかない資料による報告を公にしている。韓国の元「慰安婦」による補償請求運動に同調する国際キャンペーンに影響を受けている。韓国が官民一体となったパブリック・ディプロマシーに負けたのである。
日本のパブリック・ディプロマシーはどうであろうか。外務省のホームページでは日本語版で「広報文化外交」、英語版で「Public Diplomacy」の項目を立て「外交政策を円滑に行うため、日本への関心を高め理解と信頼を深めてもらう」ことを主眼に置いてある。しかし、その内容は海外広報、文化、人的交流などで広報(PR)と文化交流に偏っているきらいがある。これでは「国際社会における戦略的な優先事項を実現するプロセス」(英国外務省による定義)とは本質的にかけ離れたものである。中国や韓国関係の国会議員連盟も相手の機嫌を損ねないように忖度してか、「相手に厳しく反論して、日本の主張を堂々と述べた」という話を聞かない。「物言わぬ議連」に堕してしまった議連は有害無益である。
地政学上の構造的変化の時代に、核心を突いた説得力のある政治的メッセージを世界に発信することがますます求められる。安倍晋三首相が1月23日、スイスの世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)で英語による基調講演をし、世界貿易機関(WTO)の改革にリーダーシップを発揮する決意を示した。首相は2014年のアジア安全保障会議(シャングリラ対話)の基調演説でも、中国が強権を振るいだした南シナ海の緊張を背景に海洋での「法の支配」を訴えた。金子将史PHP総研代表は「日本が国際社会の第一級のプレーヤーであるとの認識を定着させることがパブリック・ディプロマシーの当面の目標である」(「国際問題」2014年10月)としている。不確実性が強まる国際経済、安全保障情勢に直面して、安倍首相自らが積極的にかかわる主導的姿勢を世界に示したことが最高のPublic Diplomacyになるのである。
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