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2019-02-14 19:27
「団結」という言葉と裏腹の「分断」
古村 治彦
愛知大学国際問題研究所客員研究員
2019年2月5日、ドナルド・トランプ大統領が一般教書演説(State of the Union Address)を行いました。直訳すれば、「アメリカ合衆国の状況に関する演説」となります。Unionという単語にはいろいろな意味がありますが、ここでは「人々や州が団結して構成しているアメリカ合衆国」ということになります。その他には組合などといった意味もあります。団結して構成されているアメリカの一年がどうであったか、これからどうしていくかということを大統領が述べるものです。アメリカ議会に大統領が入るには連邦下院議長の許可が必要となります。そのため、本来は1月末に実施されるはずであった一般教書演説ですが、国境の壁建設のための予算を巡りトランプ大統領と民主党が対立し、政府機能が一部閉鎖となり、民主党が過半数を握っている連邦下院の議長であるナンシー・ペロシ連邦下院議員(カリフォルニア州選出、民主党)は政府機関の閉鎖が解除となるまで、演説を延期するように求め、トランプ大統領もこれに従いました。政府機能が2月15日まで再開となったので、一般教書演説が例年通り連邦下院議場で行われる運びとなりました。
今回、私も一般教書演説の生中継を見ていたのですが、感想としては、長くて退屈、トランプ大統領らしさを感じないものだった、ということになります。トランプ大統領は、言葉の上では超党派の団結を訴えましたが、実際には、自分の政権で達成した経済的成果について述べる時には、共和党側の出席者の方ばかり向いて話していました。拍手もなく、笑顔もない民主党側に向かって話しづらいというのは分かりますが、団結とか一つの国とかそういう言葉が内容のない空虚なものに感じられました。共和党側は何とか盛り上げようと、途中でスポーツの応援の時のように、「USA! USA!」を連呼しましたが、非常に怖いものを感じました。アメリカは内向き、勝つ排外的になっているように感じました。国内に抱える諸問題から目を逸らさせるために、言及は少なかったものの中国との貿易問題を利用しているようにも感じました。
インフラ整備、HIV対策、処方箋薬剤の価格の引き下げといった民主、共和両党で協力できる分野の時には民主党側からも拍手が出るなど、ムードは良くなりましたが、国境の壁や妊娠中絶などに関しては、民主党側から野次こそ出ませんでしたが、頭を振ったり、目をむいたりするような態度が見受けられました。議場の一般席には招待された人々が座っていましたが、その中には、トランプ大統領の娘婿ジャレッド・クシュナー補佐官と娘であるイヴァンカ・トランプ補佐官が座っていました。その同じ並びですが、通路を隔てた場所には、大統領の娘であるティファニー・トランプさんが座っていました。彼女は全身白い服装をしていて、私は驚きました。それは、民主党側の連邦議員たちの一部女性議員たちが事前に話し合って、白い服装で出席すると取り決めていたからです。彼女たちはトランプ大統領の言動に抗議の意味を示すため、そして、女性参政権運動の先駆者たちに感謝の意を示すために、白い服を着て出席しました。ティファニーさんもそれに合わせたのだろうかと思い、私はびっくりしました。
これは別の機会に詳しく述べることですが、演説の中で、唐突に「社会主義」という言葉が出たことにも驚きました。「アメリカで社会主義を求める声が大きくなっている」「アメリカはこれからも社会主義国にはならない」とトランプ大統領は演説の中で述べました。社会主義と戦い、勝利を収めた、資本主義と民主政治体制の総本山であるはずのアメリカで、大統領が憂慮を示すほどに社会主義を支持する声が大きくなっているというのは驚きでした。現在、一時的な妥協によって政府機能が再開されていますが、その期限は2019年2月15日です。それまでに妥協が出来るのかどうか、ということになりますが、今回のトランプ大統領の演説内容では、民主党側の反発を招くだけで難しいように思います。また、人々の支持を得られるような言葉遣いもなく、ただ退屈なものでした。今年のプロアメリカンフットボールの優勝ティームを決めるスーパーボウルも点が入らずに退屈な内容であった(詳しい人にとってはそうではなかったとも言われています)のですが、アメリカの冬の風物詩であるスーパーボウルと一般教書演説が退屈だったとすると、アメリカ人の気持ちは盛り上がらないでしょう。団結(Union)という言葉が入っている演説で分裂(divide)が深まるというのは、アメリカの現状をよく示していると思います。
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