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2007-07-10 10:16
「美しい国」?ー日本の品格が問われている
角田勝彦
団体役員・元大使
政府は、7月5日、安倍首相が提唱する「美しい国」づくりに関する世論調査の結果を発表した。日本の現状を「美しい」とした回答が10.6%にとどまり、「どちらかというと美しい」を合わせて、ようやく53.3%と半数を超えたに過ぎないのは、首相にとり不本意だったのではないかと推測される。しかも、20代の57.6%と30代の50.5%は「美しくない」と回答した由である。
なお、「美しい国」の姿として,安倍首相が挙げた4つの柱のうち、もっとも重要と思うとされたのは、文化,伝統,自然,歴史を大切にする国(47.5%)、 自由な社会を基本とし,規律を知る,凛とした国(22.6%)、世界に信頼され,尊敬され,愛される,リーダーシップのある国(16.7%)、未来へ向かって成長するエネルギーを持ち続ける国(10.2%)の順だった。 これは、日本の美しさとは何かへの回答(複数回答)で、自然が80%、匠(たくみ)の技が58.5%、景観が52.8%、伝統文化が50.8%と、気質・感性の33.8%や行動様式の33.7%を、かなり上回っていることと一致しよう。しかし、「美しい国」というとき、政治上(とくに国際政治上)問題となるのは、自然や景観などより、行動様式であろう。
幸い、世界の日本への評価は高い。2007年3月BBCがまとめた国際世論調査(27カ国の2万8000人対象)によれば、日本はカナダとともに世界に最も良い影響を与えている国との評価(54%)を得ている。外務省が6月発表した米国における対日世論調査の結果でも 日本への信頼度では一般の部で74%、有識者の部で91%が「信頼できる」と回答し、調査を始めた60年以降で最高となった。これを見ると上記の国内調査での20~30代の「美しくない」との否定的回答は自虐的すぎると思われる。
この点で懸念が残るのは、慰安婦問題に代表される反日キャンペーンである。日本「人民」も旧日本軍の侵略の被害者としつつ、旧日本軍をとにかく貶め、いままた日本で軍国主義が復活しつつあると大騒ぎする動きは、6月26日の米下院外交委員会の慰安婦決議可決に見られるように、あるていどの成果を収めている。中国外務省の秦剛・副報道局長は28日の記者会見で「日本政府は歴史に責任を持った態度を取るべきだ」と述べた。 なお、これに勢いを得てか、北朝鮮は、7月6日、朝鮮総連本部の強制競売問題に関連し、拉致事件に絡む捜査を「ファシストの暴君」の所業と非難する文書を国連に提出した。慰安婦決議案が下院本会議にかけられるかは未定の由であり、安倍首相は、3月の言明で、決議案への賛同者を逆に増やしたとされる苦い経験から静観する姿勢を示している。戦術上、やむを得ないものがあるが、米国はディベートの国である。訴訟で黒白を付けるのが当たり前の国である。沈黙は、反論できないからと解される国である。
本欄での数度の拙論(とくに3月19日「従軍慰安婦問題ネガティブ・キャンペーンに至急対処せよ」、4月16日「慰安婦問題に関する米国議会調査局報告書を活用せよ」、6月11日「『普遍的価値を重視する日本』を世界に認識させよ」)でも表明したが、本件については官民が力を合わせ、裏面工作を含め、いわれなき汚名をそそぐ努力をおこなうべきである。汚名は旧軍部のみでなく、日本人全体が蒙ることになるのである。自民、民主両党などの有志議員や有識者の意見広告は、それなりの成果を挙げている。在米日系人にも協力いただいていると聞くが、進出企業も進出先を選挙区とする米議員への働きかけなどを行うべきである。米国ほかにおいて、「普遍的価値を重視する日本」を認識させることによってこそ、「美しい日本」への理解と支持が促進されるのである。
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