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2019-03-25 13:08
欧州に高まる対中警戒感
鍋嶋 敬三
評論家
欧州連合(EU)の中国に対する警戒感がこれほど高まったことはなかった。EU首脳会議(3月21-22日、ブリュッセル)を直撃するかのように中国の習近平国家主席が欧州を歴訪、イタリアは中国主導の巨大経済圏構想「一帯一路」への参加の覚書に署名した。EUの原加盟国で先進7カ国(G7)の中で初となるイタリアの参加は衝撃的である。対米貿易戦争が長期化し、経済減速の風圧が国内でも強まる中で欧州に活路を見い出そうとする中国外交の勝利である。同時にこの「事件」は欧州の分断を一層促進するものとして、EU自身が危機感を深めるものとなった。フランスのマクロン大統領が「欧州が中国に脳天気でいられる時代は終わった。EUー中国関係は貿易ではなく、戦略的、地政学的な要因に基づかなくてはならない」(ロイター)と語ったのはその表れである。
トゥスクEU大統領はサミット終了後、4月9日に予定されるEU・中国首脳会議について「バランスの取れた関係」を作ることが焦点で、そのための「公正な競争と対等な市場アクセス」の実現が不可欠との認識を示した。EUはサミットに先立つ3月12日、「EU
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中国ー戦略見解」を公表した。この中で中国が「協力パートナー」であると同時に「技術的優位性を追求する経済的競合相手」であり、また「異なる統治モデルを推進する体系的ライバル」と位置付けた。中国市場の閉鎖性、国内企業に有利な知的財産所有権の保護、外国企業に対する技術の強制移転など、中国の異質な貿易、投資システムを厳しく批判した新戦略と言えるものとなった。政策研究機関・大西洋評議会のF.ケンプCEOは「これまでにない最も明確で厳しい表現であり、最も重要な対中政策である」と評価している。
「戦略見解」では10項目の行動計画をまとめ、EUサミットに提出された。サミット後の結論文書では外国の国有企業や国の補助にかかる融資によるゆがんだ影響に完全に対応するための方策を2019年末までにまとめるとしている。これは中国を念頭に置いたものに外ならない。「一帯一路」を軸にした欧州の分断が明らかである。欧州の21カ国が覚え書きに署名したとされるが、このうち、北大西洋条約機構(NATO、29カ国)の加盟国は原加盟国のイタリアやポルトガルを含め半数の15カ国にのぼる。中国は財政危機に陥ったギリシャに巨額の投資を行い、米第6艦隊の管轄する地中海で、要衝・ピレウス港の運営権を握った。これはインド洋のスリランカを借金漬けにしてハンバントタ港を99年間借り上げた「債務の罠」作戦と軌を一にしている。「一帯一路」がまさに戦略的意味を秘めていることが徐々に姿を現してきたのだ。
イタリアの「一帯一路」参加はG7の結束にも影を落としている。中国の南シナ海での一方的な主権の主張と地域の緊張を高める軍事化の推進、チベットや新疆ウイグル自治区などでの人権弾圧などに対するG7の批判的な立場に、イタリアが中国に配慮して否定的ないし消極的な態度を取ればG7の結束を乱し、自由民主主義体制の先進国グループとしての存在価値が問われることになる。米欧対立に輪をかける恐れもある。安倍晋三首相は4月下旬に欧米歴訪を計画している。日本としてはEUとの間の経済連携協定(EPA)と戦略的パートナーシップ協定(SPA)を基盤に対中政策でEUが結束を固め直すよう働きかける外交努力をするべきだ。それが日本のインド・太平洋戦略の推進の支えにもなるのである。
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