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2019-03-26 21:25
北朝鮮は米国の「非核化への決意」を侮ってはならぬ
加藤 成一
元弁護士
2月27日及び28日のベトナム・ハノイでの第二回米朝首脳会談は、北朝鮮の非核化等に関する合意が成立せず、結局決裂した。その原因については、様々な見方があるが、根本的には両国の間の「非核化」に関する認識の違いが最大の原因であろう。米国側は、「非核化」とは「ICBMや既存の核兵器の破棄、寧辺の核施設を含むすべての核施設の活動停止と破壊、核兵器の実験と開発の停止」とする一方、北朝鮮側は「核兵器の実験及び開発の停止と寧辺の核施設への国際的査察団の受け入れと破壊」に限定したのだ。米国側の基本である「完全且つ検証可能で不可逆的な非核化」(CVID)と北朝鮮側との隔たりは余りにも大きい。トランプ氏は会談後の記者会見で「北朝鮮は経済制裁の全面解除を要求してきたが、米国が寧辺の核施設と北朝鮮が公表していない核関連施設の査察と廃棄を求めたところ、金氏が難色を示したため立ち去ることを決めた」(3月1日付け産経新聞朝刊)と述べているが、これが会談決裂の真相であろう。そうだとすれば、北朝鮮が今後完全に核兵器や弾道ミサイル兵器などを放棄しない限り両国の合意成立は不可能といえる。
今回の第二回米朝首脳会談において、北朝鮮側は米国の「北朝鮮非核化への決意」を侮り甘く見た形跡がある。金氏はトランプ氏との首脳同士の「個人的関係」に基づき、今後の核開発や核実験、ミサイル発射実験の停止と寧辺の核施設の廃棄だけで経済制裁が解除されるものと過信したのであろう。しかし、米国の世界的な「核拡散防止」への決意は極めて堅固である。これは共和党・民主党を問わず米国の揺るぎない一貫した基本方針でもある。米国による世界的な軍事的覇権の維持確保が背景にあるとはいえ、米国は、「核拡散防止」の立場から、自由と民主主義の価値観を共有し信頼できる長年の同盟国である日本やドイツ、韓国、台湾に対してさえ、その「核武装」は絶対に容認しないのであり、トランプ氏は2015年国連安全保障理事会で決議されたイランと米英仏独中露六か国の「イラン核合意」でさえ、核兵器やミサイル兵器開発の制限が不十分だとして、同核合意から2018年に離脱している。
これらのことを併せ考えれば、米国によって、「世界平和に対する脅威を画策する国家であり、人権抑圧を常とする独裁国家であり、テロを支援し、大量破壊兵器の拡散を行う危険な国家」として、1990年代末に北朝鮮などが「ならず者国家」「悪の枢軸」として指定された前歴のある当の北朝鮮に対して、その「非核化」について米国が安易な妥協をすることはあり得ないし、決してあってはならないのである。現に、今回の会談決裂についても、トランプ氏の決断を与党共和党のみならず、野党民主党もこれを肯定し評価しているのである。一旦は米国により「ならず者国家」の指定が解除されたとはいえ、今も日本人拉致問題の解決を拒否し、自己の親族さえ粛清、殺害し、国民の人権を抑圧し、今も党幹部や一般民衆を公開処刑し、恐怖政治を行う金氏による「超独裁国家」である北朝鮮の危険な「ならず者国家」としての本質は、今も決して変わってはいないと言えよう。このような北朝鮮に対して、米国が万が一にも妥協して事実上「核保有」を認めれば、自国の要求を貫くためならば手段を選ばず、核兵器による恫喝脅迫を繰り返す危険性は到底否定できないのであり、核兵器を保有しない周辺の日本や韓国のみならず、北東アジア全体の平和と安全にとって極めて深刻な脅威となることは明らかである。ハガティ駐日米国大使も、「トランプ大統領が北朝鮮の経済制裁解除の要求を拒否したのは、日米や地域の安定に寄与しないと認識したからである」(3月20日付け日本経済新聞)と述べているのである。
今回の米朝首脳会談決裂を受けて、北朝鮮東倉里のミサイル発射実験場の復旧が米国の衛星写真で確認されているが、もしも、北朝鮮が核実験やミサイル発射実験を再開し強行した場合は、米国は北朝鮮の核・ミサイル関連施設に対するピンポイント攻撃などの軍事的手段を取らざるを得ないであろう。なぜなら、トランプ氏が誇る「核・ミサイル実験の停止」という米朝首脳会談唯一の「成果」が反故にされるだけでなく、北朝鮮との交渉による核問題の解決が不可能であることが改めて再確認されるからである。そして、北朝鮮が米国本土を狙うことを公言する、北朝鮮による核実験やICBMなどのミサイル発射実験は、米国の安全にとって深刻な脅威であるから、米国は、従前から国連憲章51条に定める武力攻撃が発生しない場合でも国の広範な利益を防衛するため、北朝鮮に対する先制的自衛権行使は可能であると解釈しているからである。2001年7月ペリー国防長官は、連邦議会公聴会で、北朝鮮を念頭に「米国は長距離の弾道ミサイルによって核兵器や生物・化学兵器で米国を攻撃すると米国を脅迫するようないかなる国のミサイル発射基地も攻撃できる政策を立案することができる。」と述べている。仮に米国が北朝鮮の核・ミサイル関連施設をピンポイント攻撃した場合でも、中国が米国との全面核戦争を覚悟してまで、これに介入することはあり得ない。なぜなら、米国にとっての、価値観を共有し政治的経済的にも安全保障上も極めて緊密堅固な同盟関係にある日本とは異なり、中国にとっての北朝鮮は、中国が米国との全面核戦争による自国の滅亡の危険を冒してまで守るに値するだけの価値に乏しい国だからである。北朝鮮は米国の「北朝鮮非核化への決意と覚悟」を決して侮ってはならない。
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