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2019-09-12 11:37
安倍外交、戦略立て直しを
鍋嶋 敬三
評論家
第4次安倍晋三第2次改造内閣が9月11日発足、安倍外交は仕上げの段階に入った。しかし、過去6年余の米国、中国、ロシアなどに対する外交実績を見ると疑問を呈さざるを得ない。安倍首相が進めた安全保障体制の強化、主要国首脳との信頼関係の構築の努力は高い評価を与えるべきであろう。にもかかわらず、日本の国益にもっとも大きく影響する米中露からの日本に対する強硬姿勢に本質的な変化は生まれていない。その背景としては安倍首相が首脳との良好な関係の維持を重視し、相手の気持ちに逆らわないよう「忖度」するために足元を見られているためではないか。首相は国益を軸に主体的な外交戦略を推進しなければならない。
北朝鮮が短距離弾道ミサイルを今年になって10回も発射したにもかかわらず、安倍内閣は「日本の安全に影響はない」との姿勢を取り続けている。トランプ米大統領がミサイル発射を「問題視しない」と公言しているのに歩調を合わせてのようだが、国連安全保障理事会決議違反の発射実験によるミサイルの精度向上、戦力強化は明白である。これが日本の安全に脅威でなくて何であろうか。首相が外交戦略でなすべきことは①日本の国益にとって何が喫緊の大事か、②米中露などの大国の対日戦略の基本ーを見極めることである。米国のトランプ政権は、安倍政権の「インド太平洋戦略」に相乗りして、この地域の重視の姿勢を示した。だが、トランプ政権の本質は「米国第一主義」を掲げ在外米軍の縮小、自らの選挙地盤である農業や自動車などの個別産業の利益最大化を重視することにある。大筋合意をみた日米貿易交渉でも米国は取るべき農産物輸出は取り、自動車は継続協議だが、関税上乗せの「脅し」の余地は十分残した。過大な要求を突き付けて、政治的経済的利益を確保するトランプ流は貫いたのだ。
中国は最近、表向き「対日友好」を演出しているが、米中覇権戦争の最中に二正面作戦を避けるための戦術転換に過ぎない。その証拠には沖縄県尖閣諸島への領海侵犯は休みなく続けて「主権の行使」を誇示している。南シナ海の「領海化」、「領土化」を進めミサイル基地など軍事力を強化してベトナムなど関係諸国との緊張も高めた。南シナ海は日本にとって死活的な海上交通路であり、習近平国家主席を国賓として日本に招く状況には全くない。安倍首相はロシアのプーチン大統領と9月5日、27回目の首脳会談をしたが、北方四島返還の糸口すらつかめない。共同経済活動などをいくらアピールしても、プーチン大統領は日米安全保障協力(つまり日米安保条約)が平和条約締結の障害になるとの新たな条件を持ちだした。彼は第二次世界大戦の結果であると主張する北方領土の占領を放棄することは絶対にしないと心に誓っているのであろう。安倍首相はウラジオストクでの「東方経済フォーラム」演説で「ウラジーミル。君と僕は同じ未来を見ている」とプーチン氏に呼び掛けたが、これは「同床異夢」ではないか。
安倍首相はフランスでの主要国会合(G7)でロシアのG 8復帰の検討を呼び掛けたと伝えられる。復帰に真向きのトランプ氏に合わせたのか。ロシアがウクライナからクリミア半島を武力併合してG8から追放されたことを忘れたかのようだ。第二次大戦終了後に不法に奪われた北方領土の返還という日本政府の基本的立場を放擲するに等しい。日本は領土問題をはじめ主権の尊重、正義の実現を目指す外交を展開すべきだ。環太平洋経済連携協定(TPP11)や日本・欧州連合(EU)経済連携協定の発効は安倍外交の成果である。日本が主導的役割を果たした巨大自由貿易圏の成立は米国や中国に対する外交的優位をもたらした。多国間外交をさらに推進すべきである。Public Diplomacy(世論外交)にも本格的に乗り出すべきだ。日本の正当な主張を国際社会に浸透させなければならない。中国や韓国は「世論戦」に長けており、日本はしばしば国際的に不利な立場に追い込まれてきた。首相はじめ有力閣僚が国際場裏で日本の正当性を強力に発信すべきだ。来たるべき国連総会がそのよい機会である。
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