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2019-10-11 14:25
米朝交渉、北朝鮮の背後に中国の目
荒木 和博
拓殖大学教授
先日ストックホルムで開かれた米朝実務者協議の結果が気になります。北朝鮮の金明吉首席代表は、北朝鮮大使館での会見で「交渉は我々の期待を満たさず、最終的に決裂した」と述べ、「何の結果も出せず決裂したのは全面的に、米国が旧態依然とした観点と態度を改めなかったためだ」と非難したそうです。一方、米国務省の報道官は、トランプ米大統領と金正恩朝鮮労働党委員長が昨年シンガポールで初会談してからの経緯を振り返り、「より集中的な取り組みの必要性について議論した。米国側が独創的な案を示し、北朝鮮側と良い話し合いができた」と主張したとのこと。
この格差はなんでしょう。北朝鮮が簡単に米国との関係を切れるはずもありません。正直に言って現時点では何とも言えないのですが、何かが報道される以外のやり取りあることは間違いありません。例えば、北朝鮮側が、中国に疑念を持たれないようにとりあえず決裂したように見せかけたとかでしょうか。いずれにしても、米朝どちらも中国をにらんで外交をしているのです。今ちょうど大学の講義で朝鮮戦争を取り上げているのですが、当時中国が参戦した理由を表した「唇滅歯寒」という言葉を学生に教えました。
唇にあたる北朝鮮が滅びれば歯にあたる共産党の中国が寒くなるという意味です。中国としては北朝鮮を失うのは外交のみならず内政上の政局にもつながりかねません。今の習近平独裁には反発している勢力も多いでしょうし、香港での民主化デモも収束の気配がありません。北朝鮮問題に何かが起きれば、事態が急転し、中国が大きな動きに出る可能性もあります。中国は米国の東アジアへの関与を厳しく観察していますし、米国が有利になるような外交判断を北朝鮮がすることを許すはずがありません。
それほど共産党は明確な当事者意識をもっているのです。その中国と対峙している米国は、おそらく朝鮮半島問題を対中外交の付帯事項くらいにしか考えていないのではないでしょうか。日本政府は、その米国に朝鮮半島政策を依存しているわけですから、このままでは拉致問題をはじめとした朝鮮半島の諸問題を独自に進展させるのは難しいと言わざるを得ません。日本も「唇滅歯寒」、すなわち喉元にナイフが当たっているかのような当事者意識を持って、朝鮮半島問題に政官民挙げて柔軟な発想と主体的な姿勢で臨むべきです。その意識が持てれば、朝鮮半島の問題、特に拉致問題も事態を急展開させることもできると信じています。
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