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2019-11-16 10:19
グレタ・トゥンベリ氏が浮き彫りにした環境問題の本質
野井 晶
高校教員
いささか旧聞に属する話だが、9月にニューヨークの国連本部で行われた気候行動サミットにて、スウェーデンの環境活動家グレタ・トゥンベリ氏が、思いつめた表情でスピーチをした様子を報道等で見てご記憶の方も多いだろう。日本では、同サミットでの小泉環境大臣の「セクシー発言」などと並んで、やや「バラエティー的」な扱いを受けた感あるトゥンベリ発言だが、世界的には、その是非をめぐり、それなりに真面目な議論が展開したようだ。トゥンベリ氏の“How dare you(よくもそんなことができますね)”は、いかにも思いつめたような表現であり、メディアが飛びつきそうなインパクトがある。基本的に映像メディアでは感情を発露させるトゥンベリ氏の様子ばかりが報道され、ネット上でもそのことを批判する発信が溢れた。
多くの人々には感情的に政治家や企業をなじる未熟な娘に映ったことだろう。しかし、彼女のスピーチの全文に目を通した方はどれだけいるだろうか。読めばすぐにわかると思うがが、科学的な数字を基に論理的に、国際的な環境対策の現状などを示しているなど、全体を通じてかなり練られた内容となっており、ただ感情に任せて語ったものではないことがわかる。メディア経由の二次情報により、彼女を誤解している人がいるならばそれはもったいないことである。だが、他方で、そうした内容を全て踏まえたとしても、なおトゥンベリ氏を手放しで称賛できない方もいるだろう。
筆者も、彼女の批判が的を射ていることは認めるとしても、だからといって全面的に支持する気にはならなかった。それは彼女の主張には具体的な解決に向けた提案がない、もしくは解決策めいた話が、あまりにドラスティック過ぎて実現性がないものだからだ。彼女の主張は、政界や経済界の指導者にとって耳障りですらなく、ほほえましく受け止められる類いのものでしかないだろうし、また我々一般人としても、飛行機には乗らず船で数千キロを移動するなど、彼女が実践しているような、温室効果ガス排出を伴う現在の便利で快適な文明の利器を手放した生き方はまずできない。つまり、トゥンベリ氏が図らずも明らかにしたことは、環境問題をめぐる次のような本質である。
つまり、地球温暖化を抑制するにあたり、概ね国際社会の合意を得られる解決策と、真に実効性のある解決策の間の溝があまりに大きいということである。ゆえに、この溝をできる限り埋める必要があるわけだが、そうそう簡単ではない。トゥンベリ氏のように、ただちに地球温暖化を止めようとすれば、誰しも受け入れがたいドラスティックな策を採らざるを得ず、採ろうとすれば、反発が強くなりすぎて、形にならない。他方で、無理だからといって、事態を放置していいわけでもない。この地球的課題を乗り越えるためには、どうすればいいのだろうか。やはり政治家のリーダーシップが大事だろうし、我々市民も環境問題を我が事として捉えていくしかない、というあたりに落ち着くしかないのだろうか。読者諸兄の意見を伺いたいところである。
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