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2020-01-07 15:01
イラン司令官爆殺事件と日本の対応
葛飾 西山
元教員・フリーライター
新年早々、1月3日にイラクにおいて、イランの革命防衛隊コッズ部隊のソレイマニ司令官とイラクのシーア派組織の指導者アルムハンディス氏等がアメリカによる空爆によって殺害された。イラン政府は報復を表明し、また米国は更なる被害が出た場合は52カ所の施設を攻撃すると発表していることから、第三次世界大戦、第五次中東戦争などの最悪のシナリオも可能性は低いながらも危惧されている。両国の国力差は歴然としていることから、イランには全面戦争回避の必要性が頭の片隅にはあるはずだ。ただし、米国にイラク駐留からの撤退を余儀なくさせるためには、それなりの軍事衝突とその長期化は避けられないであろう。ここで最も懸念されるのは、ちょっとした衝突が、ひいては重大な結果を招くことである。外交交渉のプロと異なり、前線兵士の感情の高ぶりはとても単純なもので、収まるはずのものが予想外の泥沼の展開を見せることがある。
日本も1937年に局地的な軍事衝突の事態収拾を図っていながら見通しの立たない全面戦争にはまり込んだ。キューバ危機の際には沖縄のミサイル基地に結果的には誤報であったが、核ミサイルの発射命令が下っていたことも明らかになっている。前線兵士の緊張の高まりによる暴発の危険性は、小康状態の中でも常に存在することになる。シーア派民兵を束ねていたソレイマニ司令官を失ったいま、各地の民兵組織が暴発しないようにイランが押さえきれるかどうかが問題である。その意味で米国は、本当は殺してはならない人間を殺すという、大きな賭けにでたのかもしれない(もし大博打の意識が無かったとしたら、それこそとても恐ろしいことである)。最新の報道によるとソレイマニ司令官の爆殺は米国防総省も「99%非現実的」としていたオプションであったが、結果的にトランプ大統領はこのプランを採用し、関係者はその瞬間唖然としたとのことである。米国大統領その人も不確定因子だと言われている。
すぐに軍事衝突は起きなくとも、局地的な小競り合いや指導者の奇矯な決定が、取り返しのつかない戦争につながった事実は、歴史上、枚挙にいとまがない。こうした状況で日本はどのようなスタンスを取りうるのか。安倍首相は双方に自制を求めるよう働きかけるようだが、現状、米国寄りの姿勢を貫いてイランからの原油輸入をシャットアウトし、また予定通りペルシア湾の外洋に自衛隊を派兵する日本の仲介にどれほどの効果が見られようか。事態が長引けば長引くほど、石油資源の80%以上をペルシア湾からの輸入に依存している日本の経済的ダメージは避けられない。また米国中心の経済関係へのリスクヘッジとして中国が推進する「一帯一路」が相対的にウエイトを増してくることであろう。中国やロシアを中心にヒト・モノ・カネの回る度合いが強まると、それによりボディーブローのような経済的ダメージを被るのは、中国やロシアと懸案を抱えている日本であろう。
米国に追従している日本の今後の展開は、それこそ米国頼みにならざるをえず、米国やイランの判断、シーア派民兵、イラク、イラン国民の感情が間違った方向に進まないよう祈るしかない。はたまた双方の自制への影響力として中国やロシアに頭を下げて頼るしかない。事態がこうなった以上、イランが核開発を完全に凍結するのと引き換えに、米国はイラクから完全撤退して経済制裁を解除する。その場合、ISの再来を抑制するため中東でのイランの影響力行使はある程度容認せざるを得ない。イスラエルやサウジアラビアは難色を示すだろうが、平和的な着地点はこれ以外にないのではないか。いずれにしても2020年の正月早々、日本は思わぬ難題をふっかけられたものである。ともあれ、超大国にとって目障りな人間は、地球上どこにいようとピンポイントで消されてしまうという現実を、われわれは改めて思い知らされることとなった。
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