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2020-07-02 21:54
世論調査で不正とは言語道断
伊藤 洋
山梨大学名誉教授
「フジテレビと産経新聞社は19日、両社が合同で行う世論調査で、実際には電話をしていない架空の回答が含まれる不正が見つかったと発表した。不正は、2019年5月から20年5月までの世論調査計14回で見つかり、両社はこの世論調査結果に基づく放送と記事をすべて取り消した」(2020/06/20朝日新聞)。この記事によるとフジTV・サンケイ新聞両社はその世論調査を「アダムスコミュニケーション」という会社に一括して下請けさせたところ、かれはこのビジネスを京都にある「日本テレネット」という企業に孫請けさせた。そこで全数ではないが一部分のデータの捏造が行われたということであるらしい。
こういう「下請け」「孫請け」「曾孫請け」・・・と呼ばれるカスケード型の封建的ビジネス慣行は明治近代化以来大手ゼネコンなどによる公共事業等において専ら行われていて、その基本的環境は利益率の低いビジネス慣行においてはびこっていたものである。そしていま分かり易い実例として、政府の持続課給付金の受付業務における株式会社「電通」とその多重下請け問題が一方で今まさに起きている。これらのことが情報化時代の今日只今においても起こっていること、それも新聞メディアという現代社会で人心や知性に係る中核的ビジネス分野において起こっているということ、あきれ果てると同時に背筋が寒くなってくる。
社会調査(ここでは世論調査)という個人の政治信条を尋ねるシーンにおいてその結果が捏造されて、そ知らぬ顔をしてその虚偽のデータを活字に起こして発表する。読者にとっては、違和感があろうともそれが彼の属する集団の意思であると暴力的に思わされてしまう。それゆえにこのような不正は極めて許しがたい冒涜行為であると知るべきである。世論調査、とくに内閣支持率調査などは、その結果が政治・行政の満足度をも表しているので、その結果が高めに出ることは「良い政治が行われている」という判定であり、政府としてはおのれの政策実行について何ら反省したり改良したりする必要は無いことを意味する。筆者の印象では、総じてフジ・サンケイの世論調査は保守政権肯定の度合いが高く出る傾向があったように猜疑的印象を持っている。ということはこの「下請け」「孫請け」連鎖の中にそういう色合いが好意的で混じり易い環境的蓋然性が高かったということであろうとそう疑われても仕方あるまい。
いやしくも大看板を張って大手ジャーナリズムの一角に棲む以上、「社論」はともかく世論調査などは絶対に誤魔化したものを発表してはならない。そうでなくては、民主主義社会は成り立たないと言っても過言ではない。近頃のジャーナリズムを「腐っても鯛」とまで言えるか否かは怪しいが、新聞は今も未来も社会の木鐸であると思いたい。しかし、当の新聞社自体にその自信が無いのなら、もはや輪転機を回すべきでない。
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