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2020-09-15 11:06
菅外交、戦略的ビジョンの明示を
鍋嶋 敬三
評論家
菅義偉内閣官房長官が9月14日、自民党総裁選挙で投票数の70%を超える支持で圧勝し総裁に選出された。16日召集の臨時国会で第99代内閣総理大臣に指名される。安倍晋三首相が持病の再発で突然の辞任表明をしてからわずか19日後の後継内閣発足で、政治の空白が避けられたことは幸いだ。菅氏は総裁選への政策発表で安倍政治の「継承とさらなる前進」を公約した。7年8ヶ月におよぶ首相在任歴代1位の安倍首相が残した功績は大きいが、憲法改正など数々の重要な政治課題も残された。それに取り組むには国民の理解を得つつ、大胆な政策を遂行する堅固な意思と実行力が必要になる。菅氏は安倍政権の内外重要政策にかかわった内閣の要の地位にあり、官房長官在任記録1位保持者であっただけに、外交政策についても「重要な政策決定にはすべて絡んできた」と自信を示している。しかし、首相としての外交手腕は未知数だ。
日本を取り巻く世界は21世紀明けの9・11米同時多発テロ(2001年)以降、不確実性の時代に突入した。中国の経済的、軍事的進出による「米中冷戦」とアジア情勢の不安定化、イランの核開発など中東地域全体の動揺、米欧諸国の分断傾向など世界は歴史的な転換期にいる。第二次大戦後のリベラルな国際秩序は米国の相対的な力の低下、中国など新興勢力の発言力の増大に伴って崩れる懸念が強まる。新型コロナ・ウイルスに象徴される予測不可能な事態が突発し、世界のパワーバランスが崩れる可能性が否定できない。世界の中で生きていく日本はどのような危機的な事態にも強靱に対処し、国民と領海、領空を含む国土の安全を守る強力な体制が必要不可欠である。
「ポスト安倍」の日本はどのような世界の実現を目指すのか、そのために日本が果たす役割は何か。外交、防衛、安全保障や経済を含めた戦略的ビジョンの提示が菅政権にまず課せられた最大の責務である。対外関係の中でも逃れられない最大のテーマは、「米国と中国」の関係と日本の関わり合いである。ミサイル防衛、海洋安全保障など国土防衛に直結する安全保障政策をはじめ、世界貿易機関(WTO)改革など国際経済関係も米国と中国の対立先鋭化が絡んで厳しさが増している。「一帯一路」政策をテコに国際秩序を自国に有利に作り替えようと図る中国の習近平政権と、歴代政権の米国の対中関与政策は失敗に終わったとするトランプ米政権のせめぎ合いは11月の大統領選挙を目前に熾烈を極める。日本が目指す国際秩序の姿を描き、それをどのような手立てで実現していくのか。ビジョンと具体的な道筋を世界に示して支持を集め、日本の国際的影響力の拡大する外交努力が一層求められる。
菅氏は米中関係の改善が世界の安定につながるとの認識の上で「米中二者択一」ではなく「戦略的外交の展開が必要」と述べている(NHK討論番組)。世界中が両国の間でいかにバランスを取るかに苦労している。日本としては、「日米」は安全保障(軍事)同盟関係にある一方、中国とは経済的関係は今後も強いものの、中国は対日政策では尖閣諸島への領海侵犯、レアアース(希少金属)の対日禁輸措置などの経済制裁も含めて、時の情勢に応じて繰り出す反日・強硬政策の手を決して緩めようとはしない。中国は相手が「弱腰」と見れば容赦なく攻撃し、「強い」と見ると守勢に回って攻撃的な手法を控えるのは相手を問わず歴史的に変わらない。微笑外交の陰に鎧(よろい)がのぞいているのだ。これは日中国交正常化交渉、鄧小平以来の対日政策や歴代の対米交渉の経緯を見ても明々白々である。日本国内では与党の自民党と公明党内の親中勢力の影響力は大きく、政府の対中国、安全保障政策を制約してきたことは安倍政権下でも明らかだった。「言わずもがな」だが、日中関係の前提は日米同盟による抑止力を一層強固にすることである。喫緊の課題は尖閣諸島が現在もさらされている「グレーゾーン危機」を含め、主権侵害に対する日本自らの防衛力の強化に尽きることを菅氏は肝に銘じるべきである。
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