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2021-02-24 11:19
翼広げるQUADインド太平洋戦略
鍋嶋 敬三
評論家
日米豪印4ヶ国(QUAD)による「自由で開かれたインド太平洋」戦略がアジア、太平洋、欧州へとその翼を広げ支持を拡大する機運が高まった。3回目となったQUAD外相会議が2021年2月18日電話会談で行われ、「より多くの国々と共にビジョンを推進して行く重要性を確認した」(日本外務省発表)。東南アジア諸国連合(ASEAN)や太平洋島嶼国、欧州の国々との連携・協力を一層深めることで合意した。加盟国に義務を課す条約に基づく機構ではなく、緩やかな結び付きによって、それぞれの対中国関係に配慮しつつ、柔軟な運用ができるソフトな枠組みを目指している。
中国による「一方的な現状変更の試みをはじめ、既存の国際秩序に対する挑戦」に対し、「法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序の強化」のため、4ヶ国の「役割はますます大きくなっている」(外務省)との認識が固まってきた。新型コロナウイルスの発生源の調査要求をめぐって中国との対立が深まったオーストラリア政府は「外交政策の大黒柱」(豪外務省)と位置付けるに至った。対中領土紛争を抱えるインドは「インド太平洋構想が欧州を含めた国際的支持の増大」(印外務省)を公式発表で指摘した。各国が個々の発表でASEANの一体性や中心性への支持を表明したのは、カンボジアなど親中勢力とベトナム、フィリピンなど対中紛争国の間で割れている現状を考慮したもので、緩やかな組織と弾力的な対応で支持の幅を広げる狙いがあろう。
QUADは米国のトランプ政権当時の2019年9月、国連総会を利用して始まった。2020年10月にはコロナ禍の最中にもかかわらず東京に外相が集結、その存在意義を世界にアピールした。QUADの発足そのものが拡大する中国の脅威に対して米国一国や日米などの二国間だけでは対応しきれず、軍事を含めた幅広い分野での課題が立ちはだかってきたとの認識が強まったためである。米国のバイデン大統領は2月19日、ドイツで開かれた恒例のミュンヘン安全保障会議でテレビ演説、「我々は中国との長期の戦略的競争に備えなければならない」と言明した。バイデン演説の第一の趣旨はトランプ時代の米欧関係の緊張を解消するため、「欧州への再関与」を約束することだ。その上で、「中国との競争は厳しいものになりつつある」との認識の下、「米国、欧州、アジアが協力して平和の確保と共通の価値を守る」ことに最大限の努力を注入するべきだと訴えた。米欧、アジアが一体となって中国の脅威に対する必要を説いたのである。
米国のオースティン国防長官も同じ日の初会見で中国の挑戦に対して「北大西洋条約機構(NATO)は米国の助けになる」と協力を求めた。バイデン政権発足後、一ヶ月という極めて短期間に集中的に対中包囲外交を推進していることが印象的である。国務省のプライス報道官も同日の会見で、中国の海警法施行による海警武装船による武力行使の可能性に対して「特別な懸念」を表明、中国が「領土、海洋紛争をエスカレートさせる」ことへの強い懸念をフィリピン、ベトナム、インドネシア、日本とともに共有していることを強調した。報道官は南シナ海における中国の海洋主権主張を完全否定した2016年のハーグ仲裁裁判所の決定を支持したトランプ政権のポンペオ国務長官声明(2020年7月13日)を「再確認する」と言明。バイデン政権の第一の課題は「同盟国や友好国との協調にあり、米国はこれまでもそれに深く関わってきた」と、政権交代にかかわらず変化はないことを明言した。QUADの今後の展開と成果は日米豪印4ヶ国のそれぞれの役割分担と相互協力次第である。日本は軌道に乗り始めたQUADの主軸国として、安倍晋三政権以来主導してきた「自由で開かれたインド太平洋」の翼を広げるための積極外交を展開する時である。
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