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2021-10-18 08:04
新安保戦略キーワードは「2030年」
鍋嶋 敬三
評論家
岸田文雄内閣が衆院総選挙(10月31日)で国民の信任を得れば、取り組むべき最大の外交、安全保障政策の課題は国家安全保障戦略の改定である。岸田首相は所信表明演説(10月8日)で「国家安全保障戦略、防衛大綱、中期防衛力整備計画の改定に取り組む」と宣言した。また「海上保安能力やさらなる効果的措置を含むミサイル防衛能力など防衛力の強化、経済安全保障に果敢に取り組む」と公約した。これらは安倍晋三政権以後、新型コロナウイルス対策に明け暮れた菅義偉内閣では手つかずのまま残された喫緊の課題である。現行の「戦略」が閣議決定されてから既に8年が経ち、日本を取り巻く安全保障環境は一変。国際秩序主導をめぐるせめぎ合いが激化した。中国の安全保障上の脅威はかつてなく強まり、ロシアは北方領土など極東地域の軍備を増強、北朝鮮は核・ミサイル開発のピッチを上げる。民主主義諸国と中国やロシアなど権威主義体制との対決機運が高まっている。
国際情勢の急展開に米欧の同盟国・友好国は続々と新安保戦略を発表した。科学技術の開発・管理、供給網(サプライチェーン)に直結する経済安全保障やサイバー、宇宙空間へと安全保障の領域が広がったためで、首相は「経済安全保障推進法」の策定を約束した。現行の「戦略」は中国に「協調的で責任ある建設的な役割を果たすよう促す」と記した。これはオバマ米政権時代の「責任ある利害関係者」として関与する対中外交方針を反映したものであった。「力による現状変更の試みとみられる対応については冷静かつ毅然と対応する」としたが、習近平中国共産党指導部には「馬耳東風」でしかなかった。東シナ海の尖閣諸島(沖縄県石垣市)に対する中国海警局巡視船の領海や接続水域への侵入は常態化した。2020年には111日連続の最長侵入記録を作り、年間でも333日に達し、2021年は155日連続と最長記録を更新。ベトナムなど東南アジア諸国と領土権を係争中の南シナ海では、岩礁を埋め立て人工島を造成、軍事基地化した。2016年ハーグの仲裁裁判所の決定で中国の主権主張を全面的に否定したが、中国はこれを「紙くず」として無視する意思を明確にしている。
米国をはじめとする同盟国や友好国は新たな戦略を構築し始めた。米国はバイデン政権が2021年1月に発足後40日あまりで「暫定国家安全保障戦略指針(INSSG)」を発表。トランプ前政権当時からの米中対立を引き継ぎ、「世界の力の分布が変化し」「新たな脅威に対処しなければならない」として「中国は唯一の競争相手」と規定した上で、中国には「強い立場から関与」の方針を打ち出した。同盟関係を「最も重要な戦略資源」と位置付けて、日本やオーストラリア、英国を含む北大西洋条約機構(NATO)との関係を重視する。その具体的な表れが「自由で開かれたインド太平洋」のための日米豪印4ヶ国(QUAD=クアッド)協力枠組みであり、安保重視の米英豪3ヶ国(AUKUS=オーカス)の発足である。
英国は2021年3月、「安全保障・防衛・外交政策統合レビュー(グローバル・ブリテン)」を発表、2030年に向けた「行動指針」とした。中国の独断性、インド太平洋の重要性が強まり、国際秩序形成をめぐる体制間競争が緊張を増大させる。新技術、宇宙などの領域で新ルール、規範や標準をめぐる競争が将来の国際秩序を決定すると分析した「統合レビュー」は日本に貴重な示唆を与える。フランス、ドイツ、オランダや欧州連合(EU)も相次いでインド太平洋戦略を公表しており、提唱元の日本が後塵を拝している。中国は2035年までに軍の近代化を実現し、21世紀半ばまでに中国軍を「世界一流の軍隊」として築く目標を立ている。中国を「全面的な体制上のライバル」ととらえた2020年11月の公文書「NATO2030」もそうだが、「2030年」がキーワードだ。中国が米国を抜いて世界第一の経済大国になるとされる2030年を見据えた戦略が欧米の主潮流であることを日本政府も十分認識して新たな戦略を構築するべきである。
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