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2022-03-03 12:26
ウクライナの今後の戦術的展開と欧米諸国の支援
葛飾 西山
元教員・フリーライター
ウクライナの首都=キエフがロシアの攻撃にさらされている状況の中で、ロシアを経済的に後援している中国の抗日戦争の歴史がウクライナの今後の戦術の参考になるかもしれないのは、あまりにも皮肉だ。だが悠長なことは言っていられない。
まずロシアがキエフを占領した場合、占領を維持し続けなければならなくなる。そうするとロシア軍はアウェーである広大なウクライナの領土の中に包まれる形になる。プーチンは既にウクライナ国民を敵に回すという、戦術的に絶対にしてはならない大きなミスを犯している。ロシア軍もそのことは自覚しているであろう。ウクライナ国民を敵に回した状態でキエフに居座ることは、相当なリスクを伴い、かつて日本軍が中国で味わったのと同様の辛酸をなめることになる。軍人や戦史研究者なら自明のことであろう。キエフ占領が遅滞しているのはその点についての躊躇があるのではなかろうか。まさに習近平が敬愛してやまない毛沢東の持久戦論の世界である。
橋下徹氏が述べられているように、国民全員が国を守るために死を賭すのは早計である。またウクライナの来るべき復興のため生き延びることを選んだ人たちもまた重要である。その前提の上で、戦線に立つ国軍・国民が持久・殲滅の抵抗作戦を取れば、ロシア軍はウクライナを占領しつづけることそのものがリスクになる。問題はプーチン政権瓦解までキエフが耐えられるかどうかだ。戦局によってはゼレンスキー大統領と政府首脳の首都脱出と根拠地への戦術的移動も必要となろう。その際に必要なのは欧米諸国の支援と、ウクライナ国民の理解だ。当然、プーチンはロシアの勝利と「ウクライナの解放」を喧伝する。その際にかつて日本が中国で交渉相手とした汪兆銘のような立場になる人を出さないことが重要だ。蒋介石が首都=南京から重慶まで退避し、列国がビルマからの援蒋ルートで支援したように、また習近平が敬愛してやまない毛沢東が延安の山間部を根拠地としたように、持久戦術も状況によっては必要になってこよう。その際、欧米諸国がなさねばならないことは「戦闘が終わったことを歓迎する」ことではない。この戦局でロシア軍が撤退しないまま停戦合意になればプーチンの勝利になる。ウクライナ領内にロシア軍が残り、東部とクリミア半島をロシアが実行支配したまま数年が経てば、世界経済は好転するだろうが、ウクライナのロシア属国化が既成事実化し、それは民主主義の終焉を意味しよう。そうならないためには、ウクライナ全土からのロシア軍撤退以外の結末はない。政府が首都から退避した場合、必ず厭戦気分が発生し、プーチンはそれを利用してくるため、徹頭徹尾ウクライナ政府と国民の抗戦を物量で全面的に支援し続けることが重要であろう。ゼレンスキー大統領の政治的経験のなさが招いた戦禍だと批判する声もあるが、いまや彼は民主主義を賭けた闘いの先頭に立つ旗手である。民主主義国家が彼を見殺しにすることだけは絶対に避けなければならない。
なお、あくまで予測の域を出ないが、ロシアで第二の「血の日曜日事件」が発生した場合、事態は大きく急展開するであろう。個人的には側近によるプーチンの身柄拘束・停戦の可能性もないではないと考えている。当然これは決死の極秘行動であるためそのような兆候が事前に垣間見えるはずはない。ただ治安関係者や閣僚、軍関係者の身辺で大きな音量の音楽が流れる機会が増えたり、この期に及んで他愛もない戯言の会話がなされていれば、それは水面下の何かのシグナルなのかもしれない。
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