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2022-03-28 10:40
ロシアのウクライナ侵攻が我が国に与えた教訓
森 敏光
元駐カザフスタン大使
1.今回のロシアによるウクライナ侵略は許しがたい暴挙であり、我が国としても国際社会とともに一刻も早い事態終結に向けて力を尽くすべきである。このことは、我が国の安全保障にとっても大きな意味を持つこととなる。
2.今回の戦争を、単に、ロシアによるウクライナ侵略に対し米欧日が中心となって制裁等を科すことにより対抗しているなどと単純な図式で考えてはならない。グローバルな視点からこの戦争を捉えるならば、第3次世界大戦への流れがすでに始まっていると見るべきである。中国と米国との覇権争いはもはや避けられない状況にあり、この中国の側に立っているのがロシアである。
3.プーチン大統領はウクライナを併合しようとしている。彼にとって中途半端な妥協はあり得ない。その次にベラルーシの併合もありうる。さらに、そこに留まらない可能性もあろう。今この戦争は膠着状態に陥っており、ロシアのエリート層の中にあってもプーチン大統領の行動についていけない人たちが出ているようであるが、このままの状況が続けば(何か「不測の事態」が起こらない限り)、いずれウクライナはロシアに制圧されてしまう。
4.プーチン大統領が何ゆえに今回の暴挙を決断するに至ったのか、我々は検証してみる必要がある。ソ連崩壊から30年、ロシアが今日の置かれた状況に追い込まれていった過程をプーチン氏がどのように捉えてきたのか、その点について冷静に考えてみる必要がある。
5.プーチン氏は、ソ連がいかにして崩壊していったのかを東ドイツにいて目の当たりにしてきた。そして崩壊後のロシアはどう動いてきたか。エリツィン時代にブッシュ大統領、そしてクリントン大統領から、G7をG8にしてやるからとか、経済援助をしてやるからとか言われているうちに、いつの間にか、ロシアに敵対的なNATOという組織が自国の国境近くにまで迫ってきていたという、ロシアにとっては屈辱的な歴史をずっと見てきたわけである。プーチン大統領自身、多くの煮え湯を飲まされてきた。プーチン大統領には、こんなことなら民主国家ロシアになどなるべきではなかったという、悔恨の情が溢れ出ているはずである。
6.ここから我々は何を学ぶべきか。それは、劣等感、執着心、そして憎悪、この三つの感情を持った人物が強権国家のトップに君臨すると、常識では理解できないような戦争を起こしてしまう危険性があるということである。ヒトラーしかり、スターリンしかり。
7.そういう視点から世界を見渡してみたとき、今、プーチン大統領のほかにも、同じような感情を抱いていると思われる人物がいたとしても不思議ではない。
8.ところで中国は今回の戦争をかなり慎重な姿勢で静観している。戦争の帰趨いかんによっては、台湾や尖閣への侵攻が正当性をもってやれるようになるのではないかと虎視眈々と見ているかもしれない。そのような誤解を抱かれないよう我が国として最大限の努力を払うべきことは言うまでもない。
9.中国は決してロシアと仲が良いわけではない。しかし、世界の覇権を狙うとすれば、利用できるロシアと手を組むことはあり得る。ここで歴史を思い出してほしい。ロシアはこれまでの大戦において、己にとって有利だと思う側についてきた。その結果、日本の領土であった北方領土はロシアに占拠されてしまい、その事実は今も変わらない。そもそも日本にはロシアとの間に平和条約がない。
10.今、プーチン大統領が核の使用を仄めかして国際社会から強く非難されている。核戦争は大国同士ではまず起こらない。しかし核保有国は今や大国だけではない。中にはロシア以上に予見可能性の乏しい核保有国もないわけではない。
11.そのような事態が現実化しないように、我々は今から真剣に思いを巡らし、よく考え、対策をとっていかなければならない。究極のところ、如何にして有効な抑止力を持つかということである。
12.戦争とは「起こるもの」ではなく、「起こすもの」である。いかに平和を願っても戦争はやってくる。戦争というものは、権力や利権によって世を動かそうとする試みである。
13.3月にはロシア海軍の艦船が津軽海峡や宗谷海峡を通過するなどして、日本周辺での活動を活発化させている。これをどう見るか。オホーツク海の戦略的重要性の高まりを背景に、米国原潜がロシア戦略原潜を偵察すべく当該水域に展開しており、ロシア海軍としてもこのような米国原潜の動きを牽制していると見るべきではないのか。プーチン大統領の核使用発言を踏まえると、米軍もそのアンテナを高くせざるを得ない。
14.今起こっているウクライナでの戦争はグローバルな意味合いを有している。日本も対岸の火事だなどと呑気にとらえていてはならない。日本が無関係だなどということはありえない。欧州からアジアにおいても、きな臭さは広く立ち上っているのだから。
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