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2022-03-28 10:51
日本がウクライナ侵略に学ぶ教訓
鍋嶋 敬三
評論家
「プーチンのロシア」による兄弟国ウクライナへの軍事侵略(2月24日)から一ヶ月、戦況は一進一退、国内外の避難民は人口の4分の1の1000万人に達する第二次大戦後最大の惨状が続く。欧州のみならず戦後の国際秩序の根幹を揺るがしている。日本が学ぶ教訓は何か?
(1)同盟の価値:ウクライナの悲劇は外国からの侵略に対して自国を守ってくれる同盟体制に入っていなかったことである。ウクライナは1994年に旧ソ連時代に保有していた核兵器を放棄する代わりに主権と領土の保全を保証した米露英などによるブダペスト覚書で守られるはずだったが、ロシアは平然とそれを無視した。中国が中英共同宣言で香港返還に際して「一国二制度」を50年間維持すると英国と約束した国際協定を「紙くずだ」として破り捨てたのと軌を一にしている。ソ連崩壊後に東欧諸国はロシアやベラルーシと国境を接するエストニア、ラトビア、リトアニアのバルト三国やポーランドなど14ヶ国が北大西洋条約機構(NATO )加盟を果たし、国の安全を担保した。ウクライナも加盟に意欲を見せていたが、これがプーチン露大統領の猜疑心をかき立てた。バイデン米大統領は欧州防衛のため米本土からポーランドのウクライナ国境近くに派遣した陸軍最強の第82空挺師団を激励しロシアをけん制した。NATO加盟国は集団防衛条項で守られている。日本も尖閣諸島(沖縄県)が中国による領海侵入で主権侵害を受けているが、米国が日米安全保障条約第5条の発動を明言、在日米軍・第7艦隊の存在と相まって、中国の軍事的脅威に対し同盟関係による抑止効果を上げている。同盟の有無が国の安全を左右することは明白だ。
(2)国際的連帯の重要性:米国が主導して侵略一ヶ月の節目になる3月24日、ベルギーのブリュッセルでNATO、欧州連合(EU )、先進7ヶ国(G7)の首脳会合が一斉に開かれ、G7にアジアからただ一国、日本の岸田文雄首相が参加した。合言葉はUNITY(結束)である。ロシア、中国、北朝鮮などの強権主義国家に対する民主主義陣営の団結を示す狙いがあった。NATO共同声明は「ロシアの侵略は欧州・大西洋安全保障に対する過去数十年間で最も重大な脅威」と認め、プーチン大統領に即時戦争中止と撤兵を要求した。その第8項で中国を名指しで警告したのが際立つ。「いかなる形でもロシアの戦争支援をせず、ロシアの制裁回避を助けるいかなる行動も控える」ことを要求した。サリバン米大統領補佐官はポーランドに向かう機中で「これは米欧同盟から中国に対する異例の直接メッセージだ」と語った。中露連携の強化がICBM発射を強行した北朝鮮を含めた東西対立の激化に直結するためだ。中国の出方によっては日米欧と中露の対立も先鋭化せざるを得ず、日本は安全保障環境の一層の悪化も覚悟しなければならない。
(3)防衛力の強化:バイデン大統領のアフガニスタン撤退は米軍事・外交の「戦略的失敗」だが、「自分の国を守れない国を米兵の犠牲を払ってまで守る必要はない」という考え方は米国に根強い。日本国憲法の前文「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した」という「他力本願」で領土の一体性と国民の安全を保証することができないことは中露の行動が示してきた。「自ら国を守る」国民として当然の責務を果たすため憲法に自衛隊の存在を明記することが第一歩である。対露融和が強かったドイツも目覚めNATO強化のため国防費の目標を国内総生産(GDP)の2%に引き上げた。「プーチンの核威嚇」に対応してドイツなどが採用している「核共有」が論議の対象となってきた。米国による核の傘に依存する日本は非核三原則に縛られたままでよいのか。核使用の脅しという現実を前にその見直しが現実味を帯びてきた。年末までに予定される国家安全保障戦略の改定に当たり正面切って積極的に検討すべきテーマだ。
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