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2022-06-18 23:43
「3本の矢」の金融政策が呼んだ悪性インフレ
伊藤 洋
山梨大学名誉教授
「日本銀行の黒田東彦総裁の『家計の値上げ許容度も高まってきている』との発言が波紋を広げている。(中略)発言全体から透けて見えるのは、今の金融政策を正当化したいという黒田氏の思惑だ」(2022年6月8日、朝日新聞)。黒田東彦氏は9年前の4月、日本銀行総裁に就任するや、大規模な金融緩和を導入。黒田氏は、この大規模緩和によって、企業業績が上向くことで賃金上昇し結果として国民消費が増えるとして、物価上昇率2%程度を目指すといい、夢のような経済好循環を描いてみせた。
これは、この前年の暮れ2012年12月に二度目の首相の座に就いた安倍晋三氏が主導した「アベノミクス」なるキャッチコピーへの金融部門からの応援策であった。アベノミクスとは、①大胆な金融政策(デフレ脱却のため2%のインフレ目標が達成するまで無期限量的緩和を行うこと)、②機動的な財政出動、③民間投資を喚起する成長戦略の3本のキャッチフレーズであった。結論を先に言えば、この①だけは黒田日銀によって実施されたが、①が結果とした②と③はついに10年実現することは無かった。アベノミクスの「三本の矢」は三本が出揃って意味のあるもので、①だけでは単にお札の価値が下がっただけ、②だけならただの物価高騰に過ぎず、③だけならお金持ちと貧乏人の格差が開く不安定社会になる。実際、見事なほどに貧富の格差が広がって社会的不安定を惹起し、犯罪が増え、生まれる子供の減少は加速した。
黒田氏は札束づくりを止めたいのは山々なれども、そのためには国民所得が増えて、人々の消費意欲が増加する、デマンドプル型のインフレを確認できなかった。「繁栄」の好循環が確認できれば、徐々に金融引き締めをしていき、日本銀行が全国の銀行から畏怖の念をもって見られるようになったところで、氏は総裁室を後にしたかった。だがもはやその夢は見果てぬ幻となり果てた。
そもそも安倍内閣が金科玉条としたアベノミクスはただの絵に描いた餅。安倍氏が唱えた3本の矢のうちで世に放たれたのは黒田氏の一本だけ、残りの2本は一度も安倍氏の手を離れたことなど無かった。以上の総決算として外国為替市場米ドル1ドルが135円前後までに達するに至っている。30年前に逆戻り、かつ悪性インフレのはじまりだ。
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