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2022-11-07 10:27
「台湾武力侵攻」は中国に破滅的結果を招く危険性がある
加藤 成一
外交評論家(元弁護士)
第20回中国共産党大会で、習近平国家主席は、10月23日自身に忠実な人物を集めた新たな指導部を発足させ、異例の3期目政権に突入した。習近平氏はかねてより「中華民族の偉大な復興」を国家目標に掲げ、経済力・軍事力で米国と並ぶ世界トップクラスの「社会主義強国」の建設を目指している。習近平氏が掲げる「中華民族の偉大な復興」は当然「台湾統一」を含み、これを前提とするのであり、そのためには台湾への「武力侵攻」も否定しない。共産主義者であると同時に民族主義者である習近平氏にとって「台湾統一」はもはや後戻りのできない至上命題であり、習近平政権の正統性の根拠となっている。今や「台湾統一」は中国の最大の国家目標なのである。ロシアのプーチン大統領によるウクライナ侵攻は、習近平氏にとって台湾武力侵攻への誘惑であろう。
台湾は人口が2354万人で教育水準が高く、とりわけ半導体生産は世界トップクラスである。さらに、AI・情報通信などの先端技術も発達している。また、長年の「台湾関係法」に基づく米国の武器供給や軍事援助により、台湾軍の人的物的水準は高く、その実力は侮れない。2022年版「世界軍事力ランキング」によれば、台湾軍は兵力190万人、航空機837機、戦闘機286機、戦車1885両、主要艦艇87隻、軍事予算107億ドル(1兆2000億円)であり、世界23位のカナダを上回る世界21位である。ちなみに、米国1位、ロシア2位、中国3位である。
従って、もし台湾が中国に統一併合されれば、台湾の高度な半導体技術や先端技術、高等教育を受けた台湾人、世界21位の台湾軍などを含む人的・物的資源がすべて中国の支配となり、中国にとっての利益は計り知れない。のみならず、中国が台湾を攻略すれば第一列島線が突破され、尖閣諸島・沖縄への脅威は倍加する。当然、中国は米国に対抗し、統一後の台湾に強大な軍事基地を建設し、南シナ海・東シナ海・西太平洋における覇権すなわち制海権・制空権の確立を狙うであろう。中国にとって台湾は極めて重要なのである。
このように、中国にとって計り知れない利益がある「台湾統一」を中国が断念することはあり得ない。中国は「平和統一」を目指してはいるが、「武力統一」を否定しないのはそのためである。しかし、台湾の「平和統一」は不可能である。「台湾平和統一」のためには、中国が共産主義体制を廃止し、自由民主主義国家に生まれ変わる以外にはないからである。なぜなら、中国共産党による香港強権支配や、チベット・ウイグルの人権弾圧等を恐れる自由民主主義体制下の圧倒的多数の台湾人は、「共産主義中国」との統一には強い拒否反応を示しているからである。しかし、中国自身による中国の共産主義体制の廃止は不可能というほかない。
中国による「台湾平和統一」が不可能であるとすれば、残るのは「台湾武力統一」以外にはない。しかし、台湾統一のための「台湾武力侵攻」は以下の諸理由により、中国に破滅的結果を招く危険性がある。
1、中国による台湾武力侵攻は米国の軍事介入を招く公算が高い。米台間には「台湾関係法」があり、米国は長年にわたって台湾に対し武器供給や軍事訓練等を行い台湾軍の近代化を図ってきた。これはもちろん中国による台湾軍事侵略を阻止し抑止するためである。自由民主主義体制の台湾を中国の軍事侵略から防衛することは、価値観を共有する米国にとって政治的・経済的・軍事的利益があるから、中国軍の台湾武力侵攻に対し、米軍が軍事介入する公算が高い。米国にとっては、「台湾関係法」により事実上の「準同盟」関係の台湾と、そうでないウクライナとはその対応が異なるからである。
2、米軍の軍事介入は、軍事力世界3位の中国軍が軍事力世界1位の米軍と世界21位の台湾軍の双方を相手に戦うことになり、中国軍には不利である。核戦力を含む陸・海・空・宇宙の総合戦力は米軍に比べ中国軍は明らかに劣っている。今後米国も中国に対抗して軍事力を拡大強化するから、この格差は今後も長期間埋まらない。また、中国軍は同一民族の台湾に対して核攻撃はできないのであり、もし核攻撃をすれば米国による核反撃を受ける危険性があるから中国軍も躊躇せざるを得ないであろう。
3、中国人民解放軍は1979年の「中越戦争」以来実戦経験が乏しい。戦争指導や人民解放軍司令部の戦略戦術、人民解放軍兵士の士気等において不安を否めない。そのうえ、中国による台湾侵攻は、ロシアによるウクライナ侵略と同様に台湾に対する武力侵略であり、国際社会の厳しい非難や反発が不可避である。しかも、台湾武力侵攻は同一民族同士の「殺し合い」の惨状になる。これらが人民解放軍兵士の士気や中国国民の戦意にも影響するであろう。
4、さらに、中台間には幅130キロ以上の台湾海峡があり、これが中国軍による台湾武力侵攻の最大の障害になる。中国人民解放軍はこれまで「海戦」の経験が全くないうえに、台湾軍は高性能の戦闘機を保有し航空戦力に優れ、さらに自国生産及び米国供給の地対艦ミサイルや空対艦ミサイル等も保有しているから、中国人民解放軍による艦艇上陸作戦は容易ではない。また、台湾海峡の存在により、上陸後の継続的な武器弾薬食料等の補給兵站にも相当な困難が想定される。
5、中国軍が、台湾武力侵攻において、サイバー・宇宙・電磁波・無人機・ドローン等によるハイテク攻撃をしても、米軍はこれに十分に対応できるハイテク兵器を保有している。
6、仮に、中国の台湾武力侵攻に対して、米国が直接的な軍事介入をしない場合でも、米国は少なくともウクライナに対するのと同等またはそれ以上の武器援助や軍事情報提供等の軍事支援を行う可能性が極めて高い。そうすると、ウクライナにおけるロシア軍と同様に中国軍も苦戦を免れず、戦争は長期化するであろう。
上記1ー6の諸理由により、中国人民解放軍による台湾武力侵攻は困難を極め失敗に終わる公算が高く、中国に破滅的結果を招く危険性がある。「中華民族の偉大な復興」を掲げ、絶対に失敗が許されない習近平氏は、台湾武力侵攻には極めて慎重にならざるを得ないのであり、米軍の軍事介入や大規模な武器援助等がなく、ほぼ100パーセントの勝算がない限り無謀な台湾武力侵攻はしないし出来ない、と筆者は考える。習近平氏は中国の優れた戦略戦術書である「敵を知り己を知らば百戦危うからず」の「孫子の兵法」を熟知しているはずだからである。
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