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2022-12-10 11:54
2023年G7首脳会合ホスト国、日本への期待
廣野 良吉
成蹊大学名誉教授
国際社会の政治経済社会に関する近年および直近の国際会合での協議に注目すると、
ア)東西関係では北朝鮮の長距離弾道ミサイル(ICBM)開発・発射に関わる国連安全保障理事会決議の度重なる違反、NATOの東方拡大、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻、尖閣諸島や台湾海峡をめぐる日中米関係の緊張、半導体など先端技術開発・貿易・投資をめぐる米中競争の激化など、新たな東西関係の緊張と共に、西側・東側諸国内での年齢・性平等、経済格差・社会的分断の阻止などガバナンス体制の強化、SDGsの達成、コロナパンデミックの克服、ネットゼロカーボンなど地球的課題への対応も強調されてきている;
イ)南北関係でも、途上国の経済発展、飢餓・貧困撲滅、雇用増大、児童労働禁止、教育・保健・福祉の向上、行政能力の向上、国際収支改善などの伝統的な途上国支援目的に加えて、途上諸国内における子どもの権利、ジェンダー平等、経済格差・社会的差別の抑制、政治・官僚組織腐敗の根絶、社会的政治的混乱・紛争の阻止などガバナンス体制の強化、SDGsの達成やコロナパンデミックの克服、ネットゼロカーボンなど地球的課題への対応も強調されてきている;
ウ)ロシアのウクライナ侵攻に伴う食糧・エネルギー危機などによる被害に対してロシアへ損害賠償を求めた本年10月の国連総会決議には、G7を初めとする先進諸国と多くの途上国(94か国)が賛成、アルゼンチン、ブラジル、インド、インドネシア、トルコ、サウジアラビア、南アフリカなど多くの途上国(74か国)が棄権、ロシア、中国、イランなど13カ国が反対という国際社会の多様な動き;
エ)本年11月のバリ島におけるG20首脳会議後の声明では、ロシアのウクライナ侵攻への非難と共に、G7とEU諸国によるロシアへの経済制裁への反対が列記;さらに、
オ)同じく本年11月のエジプトのシャルムエルシェイクにおけるCOP27会合での干ばつや洪水など気候変動による途上国の「損失と被害」を対象にした新しい国際支援基金の創設提案への賛否両論の末EUなどのイニシャテイブによる会議延長で漸く合意に達した厳しい事実を直視して;
カ)本年10月の中国共産党全国大会で習近平氏の党総書記および国家主席就任は実現したが、2019年末以降3年間に及ぶ習政権の厳しいゼロコロナ対策、都市封鎖(ロックダウン)による就労機会・所得の減少、生活苦に端を発した抗議集会が本年11月中国各地で多発化した。この抗議デモ参加者の大半が大学生を含めた若者・勤労者であったが、中間層への広がりを恐れた中国政府は直ちに一方で頻繁なPCR検査や陰性証明を義務付けたゼロコロナ政策や都市封鎖対策を緩和し、各地方政府の適切な対応を促すと同時に、他方では不穏な動きに対する厳しい監視・弾圧対策に踏み切った。人民日報を初めとする政府系報道では一過性の抗議運動という中国政府の見解に賛同・広報しているが、中国国民、特に大学教員、官僚、大中小企業主などエリート層や上海、広州、北京など大都市や中核都市の大衆(サイレントマジョリテイ)の習政権の強圧的な権威主義政策・体制への疑念・反対は根強いといってよいであろう。途上国を含めた国際社会において「個の尊厳・多様性の尊重に基づく社会の底辺層への配慮」を重視し、7億人を超える絶対的貧困層 (2015 年に改定された1日1.90ドルの「国際貧困ライン」に沿うと、2015年は10%(7億3,600万人)、6000万人を超える国内外難民(UNHCR、UNRWA公表)、所得・富の格差を初めとする各種社会的格差・分断の拡大や気候危機など地球的課題の解決を優先する国際協力が強化されるにつれて、今後長期にわたって東西・南北関係なく各国社会のガバナンス体制の改革へのうねりは着実に広がりを見せざるをえないであろう。
キ)以上の国際政治経済社会環境の厳然たる変化を注視して、G7諸国や中国・ロシアは他のG20諸国と共に、国家間の競争・緊張・対立を助長する従来の覇権国家型政治経済開発モデル(英米を初めとする一部西側諸国の新自由主義思想・政策と東側諸国の権威主義思想・体制)へ執着するのではなく、「人間の安全保障」に立脚した各国のニーズの多様性に配慮して、自然環境の恵み、地球生態系の持続性と整合した「世界の平和・安定・繁栄」という国際社会の共通目標の達成に尽力することが自国の国益につながるという「地球益=国益という新しい国際協力理念」への急速な転換が求められている。来年我が国は議長国としてG7首脳会合を主催し、インドが議長国としてG20首脳会合を主催するが、この復とない好機を逸することなく、新しい国際協力理念に基づく時代の要請に即応し、「誰一人とり残さない」というSDGs精神に沿って国際社会に対する明確な宣言と実効性ある合意文書の採択を期待したい。
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