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2023-01-16 09:36
欧州とアジアつなぐ日米同盟
鍋嶋 敬三
評論家
岸田文雄首相の欧米歴訪(2023年1月9~15日)は日本の安全保障政策史上も例を見ない画期的な成果を挙げた。土台となったのは新たな国家安全保障戦略など安保3文書の決定(2022年12月16日)による「安保政策の大転換」(岸田首相)である。外交力強化のための防衛力の抜本的強化、北大西洋条約機構(NATO) 基準の国内総生産(GDP)2%の予算確保、反撃能力の保有、尖閣諸島を守るため南西諸島の防衛態勢の増強など戦後70年の安保体制を根本的に作り替える政策決定をしたことである。岸田首相は、吉田茂元首相の日米安保条約の締結、岸信介元首相の条約改定、安倍晋三元首相の集団的自衛権の行使を限定容認する安保関連法制と並ぶ「歴史上最も重要な決定の一つ」と自負をのぞかせた。
日米首脳会談(1月13日)でバイデン大統領が日米同盟及び日本の防衛について「米国は完全に関与する」と、「完全に」を意味する異なる単語を3回も連発し力を込めて強調したほどである。日本では「先制攻撃能力だ」とタブー視されてきた反撃能力の保有も「同盟の抑止力、対応力に役立つ」と大統領は高く評価したのである。同盟国や同志国を結集する「統合抑止」戦略を重視する米国の国家安全保障戦略や国防戦略とも一致するからだ。米国からみると「日本が前進し、米国と足並みを揃えた」(バイデン大統領)と評価はこれまでになく高い。
日本に政策転換を促したのは中国の武力や威圧による一方的な現状変更に加えて、ロシアによるウクライナ侵略戦争(2022年2月24日~)がある。岸田首相は歴訪を締めくくる政策演説(ジョンズ・ホプキンス大学大学院)で、国際社会が「歴史的転換点」にある中で外交・安保政策の「二つの大きな政策転換の決断をした」と述べた。一つは安保政策の、もうひとつは対露政策の大転換だ。ロシアによるウクライナ侵略は「ポスト冷戦期の世界を完全に終わらせ」、「日本にとっても正念場である」と言う。この侵略を許せば「アジアでも行われてしまう」との危機感が強まり、厳しい対露制裁に踏み切ったのである。これは北方領土返還の意思がないプーチン大統領の下で対露経済協力を進めた安倍対露外交からの明確な決別であった。
岸田首相は言う。「先進7ヶ国(G7)で唯一のアジアの国・日本が対露(制裁)措置に踏み切ったことはロシアによるウクライナ侵略との戦いを、大西洋のものからグローバルな性格に変えた。その意味で国際社会にとって意義ある重大な決断であった」と。欧州固有のものととらえられがちの問題にアジアから日本が名実ともに関与を明確にした瞬間であった。日本は2016年以来「自由で開かれたインド・太平洋(FOIP)」構想を掲げ外交努力を続けてきたが、これをヨーロッパとつなぐ楔(くさび)の役割を自ら課したのである。日本は独自の外交の地平を地球大に広げたのだ。
日本は2023年にG7議長国、国連安全保障理事会の非常任理事国として国際社会で重い役割がある。5月にはG 7 広島サミットを主催する。米国に先立ちフランス、イタリア、英国、カナダを訪問したのはこのためである。各国とも安全保障協力の強化に努めてきた。NATOとの防衛交流も進み2018年には日本政府代表部が設置された。日本はG7 議長国としてウクライナ侵略戦争に対する自由世界のリーダーとしてとりまとめ役の重責を担う。
日本がこの数年間積み重ねてきた欧州諸国との防衛・安保協力が国際秩序の危機に対応する上で貴重な外交資源になった。日米共同声明は、ウクライナ戦争反対のため「大西洋と太平洋を越えた結束」を強調した。強固な日米同盟を背景に欧州との連携をさらに深めることが日本の外交力を高める。それは対中抑止力の強化や、西側の世界観とは別の見方で行動する「グローバルサウス」に対する外交にも生きてくるであろう。歴史の転換期に日本は「日米欧連合」を確固とした決意で推進するべきである。
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