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2024-05-01 21:09
トランプと安倍晋三:民意と官僚機構
舛添 要一
国際政治学者
アメリカでは、建国以来、政権交代があると、主要官庁の幹部のみならず、下級役人や町の郵便局長まで交代させられた。これを猟官制度(spoils system)と呼ぶ。こうなると、官僚が政治に翻弄されることにもなり、近代官僚制が損なわれる危険性がある。アメリカ大統領選挙の結果がどうなるかは予測できないが、トランプ勝利の可能性は十分にある。日本をはじめ諸外国も、「もしトラ」に備えて、トランプ・シフトをとりつつある。トランプは、「腐敗したワシントンに民主主義を取り戻すために、質の悪い官僚たちを排除する」と述べている。トランプは大統領任期が終わる直前の2020年に大統領令を発令し、仕事ぶりの悪い連邦政府の役人を解雇できる道を開いた。しかし、次期大統領に当選したバイデンは、この大統領令を失効させている。
もし、11月にトランプが当選すれば、4年前の大統領令を復活させる予定である。そうなると、かつての猟官制度の復活ということになり、官僚の任用は、能力ではなく、トランプへの忠誠度が基準になってしまう。従来は、政権交代に際して閣僚などトップ行政官約4千人が交代する慣わしであったが、これに加えて、約5万人が政治任用されるという。官僚機構の能力低下が懸念される。2009年9月から2012年12月まで民主党政権となったが、外交防衛政策をはじめ多くの政策分野で大きな転換はなかった。2012年12月の総選挙で政権復帰した自民党は、民主党政権に協力的であった幹部官僚たちを左遷した。選挙で選ばれた政権に官僚が協力するのは当然の義務であるが、この自民党の安倍政権の対応は問題であった。この結果、優秀な役人が抜けた省庁では政策の効果的な遂行ができなくなった。厚生労働省の新型コロナウイルス対策がその典型例である。
霞ヶ関の省庁の縄張り争いについて、かねてから「省あって国なし、局あって省なし」と言われるような状況であった。そこで、この縦割り行政を改革し、一省庁のためではなく、国家全体のために働く官僚を養成するという名目で、2014年5月30日に創設されたのが内閣人事局である。この組織は内閣官房の下に置かれ、内閣が各省庁の幹部職員の人事を一元的に扱うことに決まった。ところが、実際に運用してみると、プラスよりもマイナスのほうが大きくなった。制度自体に問題があるのではなく、運用に歪みがあったのである。
人事権が官邸に移るということは、皆出世したいので、幹部官僚は官邸のご機嫌を伺うようになる。それが、森友、加計、「桜を見る会」に見られるような忖度行政につながったのである。しかも、各官庁から派遣される首相の秘書官の在任期間が長すぎた。首相であれ、大臣であれ、秘書官は2年くらいで後退させるのが普通であり、首相や大臣の好き嫌いや好みが考慮されるわけではない。ところが、安倍政権の下では、それとは逆のことが行われた。その結果、選挙で選ばれたわけでもない官僚が異常な権力を持ち、世間の常識も通じなくなってしまった。アベノマスク、アベノコラボ、GoToTravelキャンペーンなど、失敗が山積した。結局、この人事がコロナ対策の失敗を生み、安倍退陣を早めたのだから皮肉のものである。官僚と政治家の関係をどうするのか、民主主義の大きな課題である。
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