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2024-05-30 07:35
「日中韓協力」のカギは中国にある
鍋嶋 敬三
評論家
4年半ぶりの日中韓首脳会議(2024年5月27日・ソウル)はサミット共同宣言で、法の支配及び国際法に基づく国際秩序へのコミットメント(関与)を再確認した(第3項)上で、朝鮮半島や北東アジアにおける平和、安定及び繁栄の基礎は「共通の利益であり、責任である」(第35項)ことも再確認した。しかし、国連安全保障理事会の常任理事国として地域の平和に最も大きな責任を持つ中国の実際の行動をこの文言と照らし合わせれば、いかに実態からかけ離れているかが実感される。朝鮮半島の非核化と拉致問題に限っても「それぞれの立場を強調した」と不一致を公式文書で認めざるを得なかった。前回文書の「完全な非核化に関与」から大きな後退である。4年半の歳月の流れでコロナ禍による世界の混乱、ロシアのウクライナ侵略戦争、北朝鮮の核・ミサイル開発の急進展、日米欧民主主義陣営に対抗する中露北・イランの連携強化が北東アジアの協力体制の構築に悪影響を与えている。
サミットは日中韓自由貿易協定(FTA)の実現に向けて「交渉の加速」で合意した。東アジア地域包括的経済連携(RCEP)協定に続くものとして中国が重視する。減速傾向が続く中国経済を立て直し、米国との対立を背景に貿易拡大のテコとしてアジア太平洋地域での主導権確保を目指すものだ。中国外務省の毛寧報道官は5月27日の記者会見でサミット再開の意義について「3ヶ国協力の新たな出発を象徴する」として「高い意義」を強調、協力深化のため李強首相が5項目の提案を行ったと説明した。①相互の核心的利益の尊重、②経済と貿易の結合の深化、③技術革新の協力支持、④人的・文化的交流、⑤持続可能な開発の推進ーである。中国の主要関心事は経済協力の強化にあった。毛報道官は翌28日の会見でも共同宣言の評価として「経済統合の促進のため協力する東アジア諸国へのメッセージ」と強調したことからも中国の狙いは明らかだ。
前回のサミット宣言から「朝鮮半島の非核化」の文言が外されたのは「中国の反対によるものか?」との韓国の通信社の質問に対して、「朝鮮半島問題に関する中国の基本的立場は変わりない」と素っ気ない答えに終わった。これはウクライナ戦争以降、特に強まった中朝の対露連携の強化を反映したものであろう。これでは中国がこのサミットを「日韓両国との意思疎通を強めて政治的信頼を深める機会」(毛報道官)と言っても説得力を持たない。このような中国に対して岸田文雄首相はどのように対応すべきか。首相からは昨年11月の習近平国家主席との首脳会談で再確認した「戦略的互恵関係」の包括的な推進と「建設的かつ安定的な関係」の構築に向かって課題や懸案について対話を重ね進展を図るとの考えを示し、李強首相も同様の考えを示した(外務省発表)という。
しかし、日中二国間ではサミット開催中にもかかわらず、中国側に起因する緊張が続く。尖閣諸島(沖縄県)の接続水域ではサミット最中の27日にも中国海警船4隻が航行、158日連続となる記録を更新した。岸田首相は李首相との会談で①日本周辺での軍事活動の活発化に対する深刻な懸念、②日本の排他的経済水域(EEZ)に設置されたブイの即時撤去、③福島のALPS処理水の海洋放出に対する日本産水産物など輸入規制の即時撤廃、④拘束されている邦人の早期解放、⑤南シナ海、香港、新疆ウイグル自治区の状況への深刻な懸念を表明、台湾海峡の平和と安定の重要性も改めて強調した。いずれも李首相からは具体的な回答はなかったとされる。これでは中国は対日関係を安定させ信頼関係を取り戻す姿勢を欠いていると言わざるを得ない。共同宣言で3ヶ国協力の制度化を目指す上で「3ヶ国国民の支持が重要な原動力」(第7項)とうたったが、このような中国の外交姿勢では空手形に終わるであろう。
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