ホーム
新規
投稿
検索
検索
お問合わせ
2024-12-19 02:14
中国・国際友好連絡会主催の日中シンクタンク会合に参加して
井出 敬二
日本国際フォーラム上席研究員/立教大学法学部兼任講師
私は2024年12月12日、中国の国際友好連絡会(略称「友連会」)が主催した日中シンクタンク会合(於中国・大連、「大国競争と地域衝突を越える-中日関係の現状と未来」)に、日本国際フォーラムからお声がけいただき、渡辺まゆ理事長、菊池誉名常務理事、研究者の皆さんと共に参加した。日本国際フォーラムは、長年にわたり、中国の複数のシンクタンクと交流している。新型コロナ禍も下火になり、石破新政権の登場、そしてトランプ氏の再登場を間近に控え、中国のシンクタンクと日本研究者たちも日本との交流を活発化させ、対日関係のあり方を議論し、アップデートした上で、中国の関係部局に提言等を上げようとしている。中国政府が日本人の短期中国訪問に査証を免除することにしたのも、日本との交流活発化に向けての措置であろう。この会議に参加した感想を、以下に記す。
会議概要
主催者の国際友好連絡会は鄧小平時代の1984年に創設された。民間友好交流を促進する機関とされ、国際問題に関する雑誌『和平与発展』(『和平と発展』)を発行している。
この会議は、少人数(日本、中国それぞれから5~6人程度が参加)で本音で話し合うとの趣旨で開催された。中国側から日本語が達者な専門家達が参加し、丸一日の会議も日本語でやりとりした。既にお互いに何度も会ったことのある人たちもいて(私の旧知の研究者も何人かいた)、先方も日本通なので、話はかみ合った。
本音で話し合うため、誰がどのような発言をしたかは対外的に発表しない約束になった。総じて言えば、私も含め日本側出席者達からは、日本側がもっている様々な懸念(中国の海洋政策、近隣の海と島々への政策が、周辺国により強い懸念をもって受け止められていること等)を伝え、武力衝突になりかねないとの危惧の念を伝えた。中国側からは、日本の防衛政策への批判、台湾に関する日本の一部の発言への懸念、中国を封じ込めようとしているとの懸念が述べられた。
国際秩序
今日、国際秩序が揺らいでいると言われている中で、私からは中国に対する期待をいろいろと指摘した。ロシア・ウクライナ戦争についても、北朝鮮兵士の参戦などは東アジア情勢に様々な影響を与えるものであり、ロシア、北朝鮮に影響力をもつ中国ができることは沢山あるであろう。またこの面で、日本と中国がもっと意見交換し、協力できるだろうと考える。大連の後に訪問した北京でも様々な中国側研究者と意見交換したが、中国側でも、ロシア・ウクライナ戦争に対する見方は割れているという印象を持った。
領土・国境問題に関しては、私は、周恩来氏、鄧小平氏の政策は、周辺国に脅威を与えず、当面は「現状維持」しつつ、時間をかけて妥協を図るというものだったと理解している。周恩来氏は、大国中国が周辺の小国に脅威を与えないように、争いごとには中国が妥協すべきとの趣旨を発言していた。これが、中露国境交渉と中印国境交渉の歴史を研究しての私の見方である。このようなアプローチを今の中国は改めて参照し、今日の政策に生かすべきとの私の持論を述べた。鄧小平時代に設立された国際友好連絡会のウェブサイトを見ると、鄧小平氏の路線を重視すると書かれている。
やはり海洋問題は避けて通れないが、中国側からは、武力衝突、流血の事態は避けるべきであり、また中国側の海洋関連法令なども完璧ではなく、修正すべき点(具体的な説明はなかったが)は修正していくとの前向きともとれる発言が非公式なやりとりの中であった。また同じく非公式な意見交換で、ある中国人研究者は、中国は国境地域の「現状維持」とは口では言わないが、実際には「現状維持」政策を踏襲しているとの説明があった。(但し、「現状維持」という言葉が何を意味するのかは、細心の注意が必要である。)
日中関係
最近の世論調査で、日本人、中国人の相手国に対する感情が悪い状況で高止まりしていることは、双方から指摘された。この点について、双方の出席者からの意見に私の見方も加味して、私なりにまとめると、1970年代から20世紀終りまでは、戦略的にも日中の協力が双方から支持されていたが、21世紀に入り、そのような戦略的な土台となる共通認識が途絶え、その時々の事案に左右される状況になっているということではないかと思う。「日中友好」(毛沢東氏、周恩来氏、鄧小平氏の敷いた路線に、田中角栄氏、大平正芳氏の政策が展開され、日中が「友人」としての関係を強めてきていた)と米国の対中関与政策が重なっていた面もあった。今日、これがどうなっている・いくのかが問われている。その基本的構図は継続しているのか、あるいはフェーズが変わったのか?いずれにせよ、現下の状況においては、リスクをマネージしつつ、長期的関係を安定させるために知恵を出す必要がある。その際、利益だけの関係ではなく、価値観も共有できるのかが問われる。(価値観の問題は、いろいろと複雑で厄介である。)
「敵」か「友」かを二分する見方は、ドイツの政治思想家カール・シュミットが提示したものであり、シュミットは毛沢東もそのような見方をしていたと説明していた。中国外交には、そのような見方の名残りがあるのかもしれない。かつて日本は中国の「友」カテゴリーに入れられていたが、そこから「敵」カテゴリーに移されるようなことがもしあれば、それは困ったものである。
なお私からは、日中の交流の障害になっている諸点-在中国の日本人の安全の問題、歴史家にとって重要な歴史的文書へのアクセスの改善、研究者が中国で研究しやすい環境の整備など-を指摘し、善処してほしいとの要望を中国側関係部局に伝達するように依頼した。
石破首相と石橋湛山
中国側出席者から石破首相が石橋湛山に言及したことに注目しているとの趣旨の発言があった。私も大学での講義で、石橋湛山の「小日本主義」を取り上げ、学生達に石橋湛山の著作を読ませている。石橋湛山は、当時の国際環境と日本の内政を結びつけて構想しようとし、また植民地主義を批判した。確かに石橋湛山は大いに注目に値すると、私からも応じておいた。
結論
中国側は、トランプ大統領の返り咲きを控えて対日関係を強化しておきたいし、また石破政権の見通し(安定性、対中政策)も知りたいということのようであった。中国が日本との関係改善を真剣に考えているのであれば、それは日本にとっても、中国との関係をどうするか、どう改善するかを考える良い機会である。
今回の会議は、日本語が堪能な知日派の日本専門家たちが参加した会議で、少人数で議論も時間をかけて深めることができ、話もかみ合った。意見の違いはあるのだが、彼らは日中の相互理解増進に貢献しようとしてくれており、それはありがたいことだ。それは「日中友好」時代の遺産とも言える。この遺産を食い潰す前に、日中関係を安定させ、また次の日中関係を支えるための種をいろいろとまいておく必要がある。
>>>この投稿にコメントする
修正する
投稿履歴
一覧へ戻る
総論稿数:5559本
公益財団法人
日本国際フォーラム