ホーム
新規
投稿
検索
検索
お問合わせ
2025-03-19 17:27
ドイツ総選挙、与党大敗の原因と今後の展望
舛添 要一
国際政治学者
2月23日に行われたドイツの総選挙は、予想通りショルツ政権与党の大敗に終わった。その原因はどこにあるのか。また、今後のドイツ政治はどう展開するのか。選挙の投票率は82.5%と高かった。これは、1980年の東西ドイツ統一以降で最も高かった。第一党は保守野党のキリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)で得票率は28.6(2021年の前回は24.2)%、第二党は極右の「ドイツのための選択肢(AfD)」で20.8(同10.4)%、第三党は与党の社会民主党(SPD)で16.4(同25.7)%、第4党は連立与党・緑の党で11.6(同14.7%)%であった。与党の一角を締めていたが、途中で連立を離脱した自由民主党(FDP)は4.3(同11.4)%で、5%条項をクリアできず、議席を獲得できなかった。左派党が8.8(同4.9)%、左派ポピュリスト政党の「ザーラ・ワーゲンクネヒト同盟(BSW)」が4.9%(2024年1月に設立)%、その他が9.5(同8.7)%であった。
この結果、CDU/CSUのメルツ党首が次の首相になると見られているが、その前に連立政権交渉が待っている。ナチス時代の反省から、いずれの政党もAfDと連立を組むことは拒否しており、メルツもこの一線は守るであろう。それでは、どの政党と組むのか。緑の党や左派党とは政策が相容れない。FDPは議席がない。そこで、残るはSPDとの大連立である。
今回の選挙結果をもたらした要因は、移民と経済である。ナチスによるユダヤ人虐殺への贖罪意識から、ドイツは移民や難民に対して寛容で、開かれた国となった。ショルツ政権もその例外ではない。しかし、昨年8月にはゾーリンゲンでイベントの来場者をシリア難民の男が襲い、3人が死亡、12月にはマグデブルクのXmasマーケットにサウジアラビア国籍の男が車で突入し、6人が死亡、1月22日にはバイエルンのアシャッフェンブルクでサウジアラビア難民の男が幼稚園児を襲い、2人が死亡、2月13日にはミュンヘンでアフガニスタン国籍の難民申請者が車で群衆に突っ込み、2人が死亡、総選挙の2日前の21日にはベルリンでスペイン人観光客がシリア難民の男に刃物で襲撃され、重傷を負った。
このように移民による犯罪が増加しているため、ドイツ国民の反移民感情は高まっている。それが移民排斥を訴えるAfDの勢力拡大につながっている。経済の低迷も大きな問題になっている。ウクライナ戦争が始まる前は、ドイツはエネルギー供給でロシアに、ドイツ製品の輸出で中国に依存してきた。エネルギーについては、安価なロシアの天然ガスを輸入することを経済繁栄のための柱にしてきた。ところがロシア軍のウクライナ侵攻によって、この輸入ルートを閉じざるをえなくなり、エネルギー価格の高騰を招いたのである。それはドイツの製造業を直撃した。ドイツの自動車の輸出先であった中国ではEVの生産が盛んになり、ドイツ車の売れ行きが激減した。昨年のGDPは、前年比0.2%減で、2年連続のマイナス成長となった。しかも、今後はトランプ関税の影響も出てこよう。
なお、旧西独と旧東独の経済格差は開いたままであり、そのことへの不満が旧東独におけるAfDの躍進の原因になっている。旧東独でのAfDの得票率は34%で、東部5州48選挙区のうち45選挙区でトップとなった。トランプとプーチンは、ウクライナの頭越しに停戦交渉を進めている。フランスやイギリスはトランプを翻意させようとしているが、ドイツで新政権が誕生するのに時間がかかれば、ヨーロッパの結束が維持できなくなってしまう。選挙で指導者を選ぶ民主主義は、迅速性や効率性で権威主義や独裁の後塵を拝することになる。ポピュリズムが跋扈する時代に民主主義は生き残れるのであろうか。
>>>この投稿にコメントする
修正する
投稿履歴
一覧へ戻る
総論稿数:5592本
公益財団法人
日本国際フォーラム