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2026-08-22 21:40
司法官個人への制裁に嫌がらせ以上の効果を持たせてはならない
佐藤 想
製造業会社員
国際刑事裁判所と米国政府の関係が険悪なことは、非常に残念なことです。ローマ規程非加盟国である米国からすれば、ICCを米国の司法機関として尊重する義務を負わないことは理解できます。しかし、ICCが米国民に対する管轄権を持たないと主張することと、ICCの判事個人に制裁を科すことは、直接的には結びつかないように思われます。
米国の主張によれば、ICC判事が職権を乱用し、管轄権のない米国民を対象とした捜査や訴追手続きをしていること以て、制裁対象としています。このことの是非について、ここでは問いません。また、ICCの判断が正しいかどうかも、ここではあえて論じないことにします。仮に米国政府の主張を全面的に認め、ICC判事が管轄権を逸脱し、米国民に対して不当な手続を行っているのだとしましょう。それでもなお、「だからその判事を米国政府が個人的に制裁する」という結論には、なお一つの論理的な飛躍が残ります。
これを考えるうえで重要になるのはICCの法曹の罷免制度です。ローマ規程46条では、判事及び検察官について、重大な非行または重大な職務違反などがあった場合の罷免手続が定められています。実際に、ICC検察官だったカリム・カーン氏は2026年に性的不正行為のために罷免されています。少なくとも、ICCには司法・検察官の重大な非行を内部的に処理する制度が存在し、現実にもそれが行使されています。しかし、米国政府はこのようなICC内部の責任追及制度を経ることなく、判事個人へ制裁を科しています。「ICCの司法官に重大な非行がある」という主張をすることと、「その非行についてICC自身の責任追及制度を利用せず、外部の行政権によって直接制裁する」ことは別問題です。直接制裁をするのであれば、米国政府はICC内部の懲戒・罷免制度および締約国会議による統治が、その腐敗を是正する能力を持たない、あるいは信用できない、という旨の評価を含意していると受け取ることができるでしょう。
これは、国際司法の場における法治主義の機能不全を、法治主義を自国の統治原理として掲げる国家自身が宣言することにもなり得ると、私は考えます。アメリカ合衆国政府はそのメッセージを国際社会に発することの意義を今一度自分たちに問うてほしいと思います。そして米国の議会や裁判所も、そのような重大なメッセージを発すること権限を行政に委任してよいのか、法的根拠をよく確かめていただきたい。そのうえで、アメリカ合衆国は良識的な結論を出すかもしれないし、出さないかもしれません。どちらが出るにしてもこの手続きには時間がかかるでしょう。それまでの間、司法が屈服しないよう、国際司法の場における法治を維持しなくてはなりません。
制裁によって司法官の職務遂行が妨げられないよう支援することもまた、法治主義へのコミットメントです。司法官を無条件に免責することと、司法官の独立を守ることは同じではありません。腐敗や重大な非行があるなら、それを問うための正規の手続があります。その手続を尊重することこそが、司法官の責任と司法の独立を同時に守る方法です。司法官への制裁が、司法判断を変更させるための手段として機能することを許してはなりません。制裁が司法官に不便や損害を与えること自体を完全に防ぐことはできなくとも、それによって司法の判断を変えることができないという制度的な堅牢性を示すことはできます。法治主義を信じる全員が試されています。
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