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2007-12-24 19:10
改めてミサイル防衛(MD)を考える
角田勝彦
団体役員・元大使
12月17日正午(現地時間)、米ハワイ・カウアイ島沖で、海上自衛隊のイージス艦「こんごう」は、搭載した海上配備型迎撃ミサイル(SM3)の発射試験を実施し、高度100キロ以上の大気圏外での標的の中距離弾道模擬ミサイル迎撃に成功した。技術的に無理とも言われていたものが可能と立証された以上、ミサイル防衛(MD)計画の費用、周辺国への影響及び集団的自衛権との関係について、おさらいしたい(8月6日付本欄367号拙稿「ふたたび『解釈改憲は無理』――安保法制懇提言を前に」ご参照)。
失敗ならともかく成功の後のTVインタビューで、MD計画に費用対効果の問題があると考えないかと糺された石破防衛相は、苦虫を噛みつぶしたような顔で、「人命がかかっているのに費用が問題か」と答えていたが、12月19日付の「もんた君、言いたい放題もほどほどに」と題する杉浦正章氏の本欄投稿488号によれば、同日朝のTBS「みのもんたの朝ズバッ!」は2012年度までにMD開発・整備費として8000億円から1兆円という莫大な予算が必要なことを挙げ「そういうものに金をかけるのなら、日本国内に金をかけなきゃならないものがたくさんある」など10分近くも反対論を展開したという。
私は、12月15日付本欄投稿486号「電子口コミで反論しよう」との投稿でご説明したとおり、血圧が上がるこんな「娯楽番組」は見ないようにしているので、杉浦正章氏の投稿から引用しているが、北がミサイル実験をした2006年7月5日早朝の番組で北を激しく批判し、コメンテーターに「これは宣戦布告だ」と言わせたのは、ほかならぬみのもんただそうである。
8000億から1兆円のMD計画は、北朝鮮が配備しているとされる200基以上の現在のノドン・ミサイルに対応するだけで、「おとり」を備えた弾道ミサイルやノドンより長距離のテポドンに対応できる能力向上型SM3を開発することになれば、経費はもっと膨らみ他の防衛予算にしわ寄せがこよう。北朝鮮のノドン核装備の進展の可能性と合わせ、わが国のMD配備の速度等のバランスをとる必要はあろう。しかし費用が高いことを理由にしたMD全否定論は無茶である。周辺国については、ロシアが米国の東欧へのMDに反対しているのは周知の事実だが、核ミサイル保有国に日本のMDをとやかく言う権利はあるまい。MDの片割れの地対空誘導弾PAC3の航空自衛隊入間基地、習志野基地など(最終的には16基地)への配備に反対する市民団体デモ隊の主張の根拠は、よく理解できない。
米本土に向かうミサイルを迎撃するのは、集団的自衛権の行使になるとの理論がある。だから、許されないというのと、だから、やれるよう憲法改正または解釈変更せよというのと2つの対応が導かれる。ノドンでは米国を攻撃できない以上、いまの問題ではないが、対テポドンの能力向上型SM3をなぜ開発するのかとの議論が始まることは予見される。
座して死を待つのが憲法の趣旨ではないというのは、前から分かり切っている。1983年ソ連は大韓航空機を撃墜して多数の人命を奪い国際的非難を浴びたが、乗員がいないミサイルでは、遠慮も要るまい。危ないミサイルなら、出来ればブースト段階でたたき落とすのに集団的自衛権を持ち出す必要はないだろう。いまでも200発以上あるノドン・ミサイルが核弾頭を装備する事態は考えたくない。MDにも撃ち漏らしは生じよう。今回1回の迎撃成功で軍事技術に将来を託すより、やはり6者協議など外交的解決の進展に努力すべきときなのであろう。
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