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2008-03-17 08:24
日銀総裁人事で「財務省にやられた」新聞と首相
杉浦正章
政治評論家
日銀総裁人事をめぐって、ここまで首相福田康夫が追い詰められた原因の最大のものは、新聞論説による副総裁武藤敏郎昇格賛美の大合唱に乗った結果と見ることが出来る。支持率意識で世論だけに乗って、政治が存在しなかった場面だ。まさに二階に上がってはしごを外された図式だが、これではねじれ国会時代の荒波は乗り越えられない。日銀人事は、今日差し替え提示の方向となった。「ベスト」として武藤だけを提示した首相は、メンツ丸つぶれである。しかし、民主党のごり押しを批判しても始まらない。「サソリは刺す」のであり、現実は刺すことを前提に対応できない方の政治力が問題なのだ。
今回の人事上の大失政は、(1)社説を含めた全国紙の論調が武藤是認または礼賛論で占められた、(2)首相はこれを武藤人事の有力材料と判断し、候補を一人に絞った、(3)結果は民主党を“悪者”にできたが、首相は政治力を問われる結果となった、と分析できる。民主党幹事長の鳩山由紀夫は、16日の民放番組で、各新聞の社説が全部民主党を批判していることについて、「マスコミが財務省にやられてしまっている。財務省が国家なりではいけない。財務省が国家なりの象徴が武藤人事だ」と反論した。非難された新聞各社は反論が求められるが、一党の幹事長が指摘する限りは、民主党担当の記者らから何らかの情報が入っていたとしか思えない。
それでは実際に「マスコミは財務省にやられた」のだろうか。社説は各社の論説委員が書くが、方向性は、総じて論説委員会で協議の上で出す。政治、経済、社会など各部出身の論説委員の会議である。従って、外部勢力が直接影響を及ぼすことは出来ない。しかし書き手は多くの場合、得意分野の論説委員が担当するので、書き手によってニュアンスが生じる事は避けられない。極秘の委員会を垣間見たわけではないが、今回の場合は、読売新聞の場合は太筆書きであり、政治部出身の可能性があるが、おそらく他の社は総じて「用字用語」やきめの細かさからみても、経済部出身者が多かったのではないか。
財務省や日銀を担当する記者には、武藤に対する“思い入れ”が相当あるようだ。民主党が人事を否決した翌日の朝日新聞の社説を見ると、その思い入れがよく分かる。書き出しから「がっかりして、力が抜ける思いである」と事態を形容した。記者の感情を冒頭から最大限に露わにした珍しい論調である。そして「政治のあまりの無策にあきれる」と続く。推測だが、おそらく相当武藤への思い入れのある記者による原稿であろう。朝日は16日付けの囲み記事「補助線」でも「武藤さんではだめですか」と署名入りの記事を載せ、未練を残している。
鳩山の非難は当たらずといえども遠からずかもしれない。この重要人事の失敗の根幹にあるのは、マスコミも首相も政界も“ねじれ”の本質を理解していないところにある。当分民主党の“参政”なくして政治は動かない、と銘記すべきである。加えて、首相人事ですら複数候補で争われる時代に、「武藤ベスト」の発想はおかしい。日銀総裁候補などいくらでもいる。複数候補を提示して事前に民主党の同意を得るのがどうみても「政治」であった。
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