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2008-04-15 14:39

中国のシーパワーが日本を呑み込む

秋元一峰  海洋問題研究者・元海将補
 2007年4月から、中国の海洋進出を危惧する投稿を続け、警鐘を鳴らしている。“鹿を逐う”は、故事「中原に鹿を逐う」の如く、覇権を狙う中国のシーパワーを表現している。上海の遥か沖合の島嶼に、中国が開発中の巨大なコンテナ港「上海国際洋山深水港(洋山港)」がある。上海と洋山港は、全長32.5キロメートル片側4車線の自動車専用「東海大橋」で結ばれている。洋山港は、今後の海上物流の増加を見越して、2002年に着工され、2005年に第一埠頭が開港している。第一埠頭は総延長が1,600mあり、巨大クレーンが設置されて、24時間稼動している。年間取扱能力は、300万TEUと見積もられている(東京港の年間取扱量358万TEU)。全てが完成する2010年には、洋山港だけで1,500万TEUを越え、既存の上海港と加えて3,000万TEU(東京港の10倍)となり、世界最大のコンテナ取扱高となると予想されている。現在、世界の巨大コンテナ港は、東アジアに集中しており、香港、シンガポール、上海、深圳、釜山、高雄が上位6港である。洋山港が完成する2010年には世界の上位7港のうち4港が中国に、1港が台湾に所在することになる。

 3月の台湾総統選挙は、両岸の経済開放による発展を掲げる国民党の馬英九氏が圧勝した。ニューヨーク大学やハーバード大学で学び、米国の金融界や学界に身を置いた経験のある氏が、単純全面的に大陸接近とはならないとの論評もあるが、それでも両岸経済の活性化策が採られることは間違いあるまい。そうなると、香港、高雄、深圳、洋山、上海を擁する巨大海上物流圏が東アジアに出来上がることになる。世界の物流の90%は海上輸送によって運ばれる。つまり、中国がグローバル経済を支える物流のターミナルを支配できることを意味する。

 本年2月、米国のArmitage International とthe American Enterprise Institute (AEI)が、Strengthening Freedom in Asia: A Twenty-First-Century Agenda for the US-Taiwan Partnershipを発表し、最近数年間、ブッシュ政権は国際問題について中国の協力に依存する度合いが高まり、その結果、米台関係は悪化しているとの認識を示し、台湾を米国の側に留め置く必要性を強調している。また3月には、米国のthe Heritage Foundationの研究員が“Taiwan's Elections: Sea Change in the Strait”と題する論文で、馬英九次期政権(5月20日に総統就任)に中国に接近する以外に選択肢がないと思い込ませてはならない、と論述し、米国政府と議会に経済交流や防衛支援の面で台湾と係わりを強めることを提言している。

 両岸経済交流が及ぼす影響について、日本の学界・マスコミの反応は鈍く、あっても、私の見る限り、経済面あるいは安全保障面からだけの表層的なものである。グローバル経済と呼ばれる時代の以前、七つの海に日本のシーレーンが伸びていた。今、中東から東アジアのシーレーンには、“String of Pearls”(中国が中東に至る海上資源ルートに沿った港湾(Pearls)に足掛かりを作り、恰も首飾りを通すようにシーレーン(String)を伸ばしていることを表わす言葉)と評されるとおり、中国仕向けの船舶が数珠繋ぎとなっている。中台経済交流の活発化はそれに拍車を掛ける。海洋国家日本は、シーパワーを強化しなければ、やがて中華経済圏に呑み込まれるだろう。
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