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2008-04-23 09:22
「避けるべきシナリオ」を走り出している日本
鍋嶋敬三
評論家
内閣府の経済財政諮問会議が設置した「日本21世紀ビジョン」専門調査会が、2030年に日本が目指す将来像を描いた報告書を発表したのは、2005年4月であった。日本がグローバル化のチャンスを活かすことに失敗し、国際的影響力の低下を招くことを、「避けるべきシナリオ」として強い警告を発したのである。当時は、小泉純一郎首相の構造改革路線の成否が問われようとしていた時期だ。それから3年、小泉内閣の退場、安倍、福田政権へと政治の激動にもまれた日本は、悪いシナリオのレールを走り出しているようだ。
「避けるべきシナリオ」では、経済面で日本が中国に追い越され、インドにもほぼ肩を並べられる。グローバルな経済統合の流れに乗り遅れ、自由貿易圏から取り残される。政治、安全保障面でもしかるべき方策がとられない場合は、「日本の国際的影響力も低下し、国際政治の動きに受動的にしか対応できなくなる」と警鐘を鳴らした。現実に国連安全保障理事会の常任理事国入りを目指した日本は、国際的支持を得られず、政府開発援助(ODA)も1990年代の1位から5位に転落した。影響力の低下した日本は、米国にとっての意味が薄れ「日米同盟関係の意義に疑問が付されるかも知れない」というのだ。普天間基地の移転をはじめ、在日米軍再編計画は遅々として進まず、海上自衛隊イージス艦の機密情報漏洩など、米国はいら立ちを隠さない。同盟関係がほころびぶ危険な状況である。
国際政治では、中国がサミットに参加して「G9」となる中で、日本の参加の意味が問われるだけでなく、米中の巨大な存在感の間に陥没してしまう恐れも指摘した。7月の北海道洞爺湖サミットの大きなテーマである地球環境問題の解決が先送りされ、安定的なエネルギー確保のリスクも増大する。最近では食料自給率が39%にまで落ち込んだ日本は、世界の食料争奪戦で落後し、その結果は国民生活を直撃するだろう。このような「悪いシナリオ」を回避するにはどうすればよいか。報告書では、スピード感を持って経済統合を進め、農業の効率化、競争力の強化を図ること、米国との同盟関係、欧州との友好関係を図る一方、「東アジア協力の要」となる日中両国の協調関係の構築を目指すこと、ODAを戦略的に拡充することなどの重要性が強調された。しかし、経済連携協定(EPA)、自由貿易協定(FTA)交渉では、優先順位をつけることなどの全体の戦略策定、意思決定が困難であるという、日本政治の課題が浮かび上がっている。
報告書は、2030年に向けて「より良いシナリオ」実現のため、この1、2年に戦略を「スピード感を持って実現」することが非常に重要だ、と指摘した。だが、既に3年を経た現実はどうか。参院で民主党が第1党になるという「ねじれ国会」では、与野党が国会運営の主導権争いに没頭し、重要な政策はスピード感どころか、決定すらなし得ない機能不全に陥ってしまっている。それが対外的に日本の国益を大きく損ねていることに、政府・与党も野党もあえて目を背けている。日本は「避けるべきシナリオ」のレールを走り出しているが、それを漫然と手をこまねいている政党の責任は、あまりにも重大である。
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