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2008-05-21 08:55
後期高齢者医療制度、政府び縫策では総選挙大敗必至
杉浦正章
政治評論家
終盤国会最大の焦点に後期高齢者医療制度が浮上した。野党4党は同制度廃止法案を23日に参院に提出、一方政府・与党は「制度改善」で真っ向から対立する方向だ。決着は通常国会ではつかず、解散・総選挙の柱となる方向だ。展望は複雑だが、あえて見通しを立てれば、「改善」では後期高齢者医療制度への国民の怒りはおさまらず、「廃止」が圧倒的な訴求力を持ち続け、選挙結果に決定的な影響をもたらすだろう。ことの重大さを意識した首相・福田康夫は、厚労相・舛添要一に「所得の低い人の負担軽減中心に、できるだけ早く運用の改善策をまとめよ」と指示した。自民党も(1)低所得者の保険料免除を9割にする、(2)年金からの天引きを一律にしない、などの改善策をまとめつつある。基本は制度を堅持して、制度改善でことを治めようとするところにある。
これは、官房長官・町村信孝が廃止を求める野党を「何という無責任な、何という反省のない方針なのか」と、最大限の言葉で非難したことからもうかがえる。政府・与党は制度維持で勝負に出るのである。背景には、ひたすら反対路線を突っ走る民間テレビと比較して、全国紙の社説が事実上制度支持で一致していることがあげられる。産経新聞が5月6日の社説で「首相は制度の意義語れ」と、全面的制度支持を打ち出している。読売も同月13日の社説で「新制度の全体的な方向は、超高齢時代に沿っている。だが、細部では問題が多い」と、制度の大筋を支持している。朝日新聞は16日の社説で「廃止した後にどうするのか。批判の強かった以前の老人保険制度に戻るだけというのでは、国民的な納得は得られまい」と野党を批判している。
しかし、制度改正でことが収まると見るのはあまりに甘い。厚労省主導の改善策は、とても「換骨奪胎」とまではいくまい。せいぜいび縫策を打ち出すのがよいところだろう。政府・与党首脳も全国紙も事の本質を見誤っている。それは後期高齢者医療制度批判が、消えた年金問題との「複合不信」に根ざしていることに気づかないからである。加えて、事実上の事前説明なしの年金天引きという制度は、戦後史でもまれに見る失政である。読売新聞の調査では、制度導入に向けた政府の準備や説明が「不十分だった」と思う人は94%に達している。世代間の線引きという、世界に例のない“惨めな”制度を、誰が考え出したのだろうか。国民の間に生じたのっぴきならぬ政治不信は、「改善」ではおさまるまい。制度改善でも、将来的に負担増なしに維持される制度とは、誰も考えていないからだ。朝日新聞の世論調査では、保険料を徴収されることについては、75歳以上の75%が反対であり、賛成の17%を大きく上回った。
全国紙の社説は、こうした世論とのかい離ばかりでなく、自社の一般記事の反対姿勢ともかけ離れており、厚労省関係専門の論説委員の机上の空論的な傾向が見られる。こうした国民の反発があって、野党は制度廃止に動いているのである。いわば世論の波に乗っているのである。国論の割れたガソリン税問題や自衛隊給油派遣問題とは本質的に異なる。町村が声を大にして野党を「何という無責任、何という反省のない」と表現しても、それはうつろに響くだけである。福田は「元(の老人保健制度)に戻して本当にいいのか」と問題を投げかけるが、元の制度が新制度までの数年間持ちこたえられないはずはない。国民的監視の下で新制度を早急に打ち立てればよい。老人医療も含めた福祉目的消費税の導入を避けて通ろうとするべきではない。いずれにせよ黒白をつけるのは総選挙だ。
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