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2008-06-18 08:14
政治の大道を行く首相の消費税発言
杉浦正章
政治評論家
ここまではっきり発言すれば、消費税導入に確信的に踏み込んでいるに違いない。首相・福田康夫の狙いは一つ。あらゆる財源論議から逃げる民主党を、責任政党のあり方を含めた消費税論議に巻き込んで、自らの起死回生をはかるところにあるのだろう。政治論としては、大道を行くものだ。17日の首相発言は「日本は世界有数の高齢化社会だが、5%でやっている。だからこれだけ財政赤字を背負っているとも言える。その辺のところを決断しなければいけない、とても大事な時期だ。過去に随分議論をやってきたが、政治決断が出来なかった。国民世論がどう反応するか、今、一生懸命考えている」というものだ。例によって、後で言い訳しているが、これだけの論理構築は思いつきではできない。極めて確信的に、練りに練った上での発言であろう。
発言の狙いを、まず対民主党的に見ると、同党は後期高齢者医療制度も含めてあらゆる財源を、“節約”でまかなうという荒唐無稽(むけい)なポピュリズム政策を展開している。政党としての無責任さは格別である。責任与党としては、民主党の最大の弱点である「財源論」を浮き彫りにして、消費税論議に同党を巻き込んでいく戦略が不可欠であろう。総選挙を前にして、財源論から逃げる民主党を財源論に引き込むことは、まさに政治の大道を行く姿勢であろう。このところ後期高齢者医療制度で押しまくられている政治状況を脱するためにも、もってこいの策である。高齢者問題では完敗が予想される選挙も、消費税が焦点となれば、良い勝負になるかもしれないのである。
新聞の社説・論調は、無駄を省いた上での将来の消費税導入には「やむなし」に傾いてきている。朝日新聞も18日の社説は「役所の無駄を徹底して省き、予算を合理的に配分できるようになっても、少子高齢化が進めば、予算が足りなくなる恐れはある。増税を持ち出すのは、それからだ」と述べ、完全否定はしていない。また自民党内事情からいえば、首相は増税派の財政改革研究会会長・与謝野馨の路線に傾斜し、上げ潮派でポスト福田に意欲を見せる中川秀直らの路線を“切る”構えというところだろう。与謝野は既に税率を10%程度引き上げる提言をまとめているが、最近首相には「消費税率を引き上げる際は、食料品など生活必需品に軽減税率を導入するかどうか、検討する必要がある」とする提言を提出している。これを受けた発言のにおいが濃厚だ。
問題は、民放ニュース番組など大衆メディアだ。これは確実に、盲目的に消費税導入反対で手ぐすねを引いているところが多い。大衆迎合の民主党が、福田発言を「税金垂れ流しの増税路線」と訴えれば、これに乗るだろう。日本国民の被統治者能力も、増税に関する限り、反政府的に動く習性がある。「愚直にやる」と一般消費税導入を明言して衆院選挙に突入しようとした大平正芳は、ごうごうたる世論の反対と自民党内の動きに押されて、衆院選公示日の第一声で、導入構想の撤回に追い込まれた。自民党の選挙対策委員長・古賀誠も選挙公約とするかどうかについて、「そこまでは難しい」と否定している。確かに福田が道路特定財源の一般財源化に引き続き、消費税導入を決断すれば、選挙対策上はマイナス要因として働くだろう。その意味で福田は自分にもはね返る両刃の剣を抜いたことになる。しかし国民を粘り強く説得すれば、理解は得られるかもしれない。ひたすらじり貧路線を進むよりはよい。自民党は堂々と民主党に対して消費税論議を持ちかけるべきである。首相は迷うことなく、消費税発言を深める論議を展開すべきだ。
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