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2008-06-20 08:16
ライス米国務長官発言は「北」との国交樹立も視野に
杉浦正章
政治評論家
北朝鮮をテロ指定国家から外す方向を述べたライス米国務長官の発言は、昨年の中間選挙で敗れて以来のブッシュ政権の対北朝鮮柔軟外交への急旋回が着々と実行されていることを物語るものだ。あきらかに米外交は「拉致」よりも「核」優先で極東外交を進めており、延長線上には北朝鮮の承認と国交樹立がある。場合によっては日本外交は孤立しかねない側面がある。ライス発言にについて外務省アジア大洋州局長・斎木昭隆は19日、「事前に聞いていない」と国会で答弁し、頭越しであることを認めた。斎木は米首席代表のクリストファー・ヒル国務次官補との会談で日本人拉致問題が進展しない限り解除しないよう求めたが、会談後ライス発言について「今まで述べてきたことを繰り返した演説だったと理解している」と述べた。しかしライス発言のこのような解釈は、楽観的すぎると言うべきであろう。
ライスは、米国政府の政策決定に大きな影響力を持つ保守系シンクタンク・ヘリテージ財団で公式に講演したであり、度重なる北朝鮮との公式・非公式接触を背景にした発言でもある。また日本人拉致問題の「再調査」を北朝鮮が表明したことを受けて、日本政府が2006年から実施している対北朝鮮制裁措置の一部を解除・緩和する方針を決めたことを、“横目で”見ての発言である。斎木のように「いままで述べたこと」と、この時点での発言を、軽く見ていては判断を間違う。というのも、ライスの選択はテロ指定国家解除にとどまらず、最終的には北朝鮮の承認と国交回復までを視野に入れた動きであるからだ。その背景には、対北朝鮮外交でタカ派路線を行くボルトン元国連大使が昨年4月に暴露した、ブッシュ政権の極東政策の転換がある。この転換は、かってクリントン政権の対北朝鮮柔軟外交を展開した国務省の外交官僚たちが、まず動いたことがきっかけになっている。
これを受けて、ヒル国務次官補を中心に国務省は柔軟路線に固まり、ライスを説得した。ライスは、折から中間選挙で敗れたうえに、イラク問題とイラン対策で手一杯のブッシュを説得にかかった。いま北朝鮮問題などにかかわっているときではない、という説得が利いた。ブッシュは「中東以外の問題はテーブルから除いてくれ」と言い放ったという。これで国務省の対北柔軟路線派が勝利し、強硬路線を信仰の対象にしていた日本外交は、見事な置いてけ堀を食らったのである。このブッシュ・ライス会談を基軸に米国務省は秘密裏に(1)まずテロリスト国家のリストから北を外す、(2)最終的には北朝鮮を承認し、外交関係を樹立する、という方針を打ち立てたのだ。ワシントンから見れば「拉致」は極東の一事件であり、世界中で連日のように発生している同種の事件と本質的に変わりはない。
しかし、何をするか分からない指導者に率いられた北の核保有は、何が何でも阻止しなければならない国家戦略の対象なのである。ただ、「拉致」世論に引き回されている日本政府の立場も同盟国として考慮せざるを得ない。このため国務省は公式・非公式の接触で北の対日強硬路線懐柔に動いたし、中国の協力も求めている。もちろん中国もその方向で協力している。こうした事情を背景にしているだけに、首相・福田康夫はサミットでの個別会談などを通じて米大統領との意思疎通を図る必要があるが、米国の意図は「核」にあることをわきまえないと、極東外交で孤立する恐れがある。また北の最高指導者・金正日が北京オリンピックに出席すれば、やはり出席する福田が会談するのかしないのか。ブッシュが出席すればなおさら、オリンピック外交はダイナミックになる可能性がある。目を離せないところである。
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