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2008-07-16 11:50
国際合意形成のモデルになり得るか
鍋嶋敬三
評論家
北海道洞爺湖サミット(G8)を終えた福田康夫首相は「多くの成果」を自賛した。しかし、直後のマスコミによる各種世論調査ではサミットの主テーマである気候変動対策を評価しないとの答えが過半数を占めた。首相に対する支持率も低迷しており、政権浮揚の思惑は外れた。とはいえ、地球規模の課題を主催国の首相が指導力を発揮して、明快な結論を導くことは不可能であろう。世界経済、地球温暖化、資源、エネルギー、食料問題など先進国、発展途上国を問わず、あまりにも利害が輻輳(ふくそう)しているからだ。
それにもかかわらず、地球温暖化問題について一定の前進を見たことは評価しなければならない。G8では温暖化ガス削減について2050年までに50%削減の長期目標のビジョンを「全世界で共有する」ことで合意、昨年のハイリゲンダム・サミットの「真剣に検討」より一歩進んだ。G8に中国、インドなど大排出量の新興国を加えた16カ国による主要経済国会合(MEM)では「ビジョンの共有を支持する」ことを打ち出した。新興国を巻き込んだ抑制に向けての合意を取り付けたのである。福田首相は7月11日のメールマガジンで「違いを乗り越えてこそ、具体的な解決につながるということを首脳間で共有し、一緒に取り組んでいく強い意思を表明できた」と成果を誇示した。
だが、これから先はいばらの道である。まず、G8サミットの限界も見えてきた。経済のグローバル化が深化、拡大するにつれ、G8だけでは課題に対処することはできなくなり、新興国をコミットさせることの重要性がはっきりしてきた。先進国と新興国の利害対立は先鋭化するだろう。中国、インドなど新興国5カ国(G5)はG8に対し「温室効果ガスを1990年比80~95%削減」の要求を突き付けたのがその一例だ。フランスのサルコジ大統領はG5を加えたG13サミットへの拡大を唱えたが、これでは議論が拡散してサミットの意義が失われる。さらにサミットの成果に対する世論の低い評価がある。課題が複雑になるほど首脳間の合意は玉虫色になり、あいまいな表現が横行する。官僚によるぎりぎりの外交交渉の結果、妥協の産物の首脳宣言は、読む気も起こらないほど長文だ。「共通の信念と責任を分かち合う」という第1回ランブイエ・サミットの精神に立ち返って、首脳間の率直な討議の結果を分かりやすく説明する努力が各国政府には必要だ。
G8を軸にした重層的な取り組みが多国間外交の新たなモデルになるかもしれない。地域的枠組みとしては東南アジア諸国連合(ASEAN)+3(日中韓)や東アジア・サミットがある。課題別の取り組みとしては、開発をテーマに日本が主導して5月末に開催したアフリカ開発会議(TICADⅣ)がある。G8ではアフリカ7カ国首脳との会合も開かれた。田中明彦東大教授はMEMを多国間外交の典型的な形ととらえ、「新しいグローバル・ガバナンスの取り組みの形」を示したと指摘している。国連安全保障理事会常任理事国への展望が開けない日本としては、サミットを軸に国際的な合意形成のため主導権を発揮するためのモデルになり得るのではないか。
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