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2008-08-06 09:37
領土問題をめぐる政府の「事なかれ主義」は国益を損なう
鍋嶋敬三
評論家
米政府機関の地名委員会が7月末、竹島(韓国名・独島)の帰属先を「韓国」から「主権未指定」に変更したが、韓国の猛反発を受けてブッシュ大統領がライス国務長官に再検討を指示、地名委のサイトは再び帰属先を「韓国領」に戻した。8月5、6両日のブッシュ大統領訪韓を控えた政治的配慮とされるが、日本の立場を無視し、同盟関係を傷つけた外交的へまである。国務省が領有権について「日韓のどちらの立場も支持しない」という中立の立場を強調した直後の、ブッシュ大統領の直接の指示は日米間の信頼関係を損なった。米国にとっては日本も韓国も重要な同盟国だが、領土紛争の一方に公然と肩入れするのは外交的に信じられない行為である。ホワイトハウスから知日派が退場したことが影響しているのかも知れない。日米首脳会談で「同盟の強化」をうたう裏では、インド洋での給油継続や北朝鮮のテロ国家指定解除などの問題で日米同盟の「漂流」が始まっていると指摘されてきた。今回の竹島の一件は、同盟の「漂流」をさらに加速する危険性をはらんでいる。
ブッシュ大統領の決定によって、日韓間の対立はさらに深まるだろう。北朝鮮の核問題を巡る6カ国協議で日米韓が連携を強めなければならない時に、日米、日韓がぎくしゃくすることは、北朝鮮を有利にするだけだ。竹島問題は日韓間のトゲである。日本政府は「竹島は歴史的事実に照らしても、国際法上も明らかに日本固有の領土であるというのが日本政府の一貫した立場である」(外交青書)ことを明確にしている。4月の李明博大統領の訪日で「日韓新時代」にふさわしい成熟した関係の構築が期待されたが、歴史認識や竹島問題など日韓間の「地雷」は埋められたままだ。中学校の新学習指導要領の解説書で竹島について初めて記述したことに、韓国が強く反発、米国産牛肉輸入問題で政治的窮地に陥った李政権が、反日感情をあおるように首相の竹島上陸、周辺海域での軍事演習とエスカレートさせた。これでは未来志向の「日韓新時代」も泡のように消えてしまう恐れがある。
日本政府の対応は、「事なかれ主義」というほかはない。国家主権にかかわる領土問題で毅然と主張を続けることが肝要だ。今回の竹島問題では、第1に解説書に北方領土と同じく「日本固有の領土」と明記すべきであった。李政権に遠慮して「固有の領土」の表現を落としたところで、韓国の反発は変わらない。むしろ、日本に強く当たれば引っ込むという印象を与えた外交的マイナスが大きい。第2に韓国首相の上陸や軍事演習には「主権侵害」として即座に抗議すべきだった。日本が何の行動も取らないことは韓国の領有権主張を黙認したと国際的に受け取られる。韓国は地図上の表記で外交攻勢を強める方針とされる。第3に米国に対しても、表記の再変更について抗議すべきだ。同盟国といえども日本の主権にかかわる誤りは毅然と指摘し、訂正させるのが独立国家として最低の守るべき姿勢ではないか。町村信孝官房長官が「米政府の一機関がやることを、あれこれ過度に反応することはない」と述べたが、大統領の直接の指示だったことにはあえて知らぬ顔を決め込んでいる。このような「事を荒立てない」日本独特の態度はロシアが不法占拠する北方領土、中国や台湾が領有権を主張する尖閣諸島の問題でも日本の国益を著しく損なうことを、福田康夫内閣ははっきり認識すべきである。
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