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2008-09-11 18:36
米印原子力協定の成立をどう評価するか?
堂之脇光朗
日本紛争予防センター理事長
7月18日付け本政策掲示板「百花斉放」に掲載された拙稿「米政権交代待ちの核軍縮をめぐる諸課題」(683号)で、私は「ブッシュ政権在任中の米印原子力協定の成立は、時間切れの様相が強まった」と書いたが、その後2ヶ月足らずの間に残された3つのハードルのうち2つまでがクリアされるという予想外の急展開がみられた。先ず、IAEAとの間の特別保障措置協定締結については、インドのシン首相がこれに難色を示していた左派諸党の代わりに他の諸党と連立政権を組むことにより、政局の危機を乗り切り、無事協定を締結し、IAEA理事会の承認も取り付けた。次いで、一層難しいとされていたNSG(原子力供給グループ)45国のコンセンサスによる「例外化」の承認についても、8月20、21日、さらに9月4、5日に臨時総会を開催し、さらにその会期を翌6日まで延長して、最後まで躊躇していたニュージーランドなど数カ国を説得して、承認を取り付けた。
残された最後のハードルは、米議会による承認である。今回の交渉の基礎となっている関連国内法によれば、30日間の審議日程が必要とされているが、大統領選挙との関係で米議会の開催予定日は9月8日から26日までの3週間しかない。短縮された審議日程で承認できるようにするには、別途の議決を上下両院とも必要としている。このように若干の波乱要因はあるものの、米議会で承認される可能性は極めて高い、と考えてよいであろう。
NSGがNPT条約に加盟していないインドとの原子力協力の「例外化」を承認したことに対しては、マイケル・クレポン(スティムソン・センター)、ビル・ポッター(モントレー研究所)などの核軍縮の大御所たちが、続々と悲憤慷慨の声をあげており、わが国の主要各紙の論調もほぼ同様である。核兵器国を増やさないためのNPT条約の恩典を、同条約の非加盟国で、しかも核兵器を保有するにいたったインドに認めるのは、NPT体制の自己否定となりかねないからである。また、5核兵器国のうち中国を除く露、仏、英も異を唱えなかったのは商業的利益優先ではないか、との批判が出るのも自然なことであろう。
しかし、嘆くばかりでは明るい展望は開けない。米印協定が成立した場合の積極的利点を見出す努力も必要であろう。先ず、今回の合意の結果、温暖化対策でインドの協力を得やすくなる面があることは否定できない。核不拡散に関しては、インドが部分的ながらもIAEAの保障措置を受け入れ、NPT不拡散体制に協力するようになることの意義は決して小さくない。悪しき先例とならないかの懸念に関しては、これまでの実績からも、インドは不拡散に熱心であるが、パキスタン、イラン、北朝鮮などのためにアメリカがNSGの承認取り付けに奔走することはあり得ず、その心配はないであろう。さらに、インドは核実験自粛のモラトリウムを維持するとしており、これがNSG総会の場での発言を含めて、どこまで法的な約束であるかは議論の余地があろうが、明年以降は政権交代後のアメリカがCTBT(包括的核実験禁止条約)批准に向けて動き出し、この問題でのインドに対する説得力が一段と強まることを期待したい。
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