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2008-09-16 07:53
不可解な「小沢国替え戦略」
杉浦正章
政治評論家
近ごろ解せない政治現象が多いが、民主党代表・小沢一郎の「国替え」ほど不可解なものはない。新聞が伝えるように党内引き締めや背水の陣を敷くためならば、いくら小沢とはいえ、まかり間違えば“自殺行為”となりかねない、国替えをするだろうか。小沢の深層心理に、何か深い事情があるに違いない。小沢自身も、昨15日は明言を避けるなど、迷っているようにも見える。民主党幹事長・鳩山由紀夫の民放番組での発言を聞いていたが、明らかに小沢とは打ち合わせの上での発言と見た。岩手4区からの出馬を明確に否定し、関東からの出馬、それも公明党代表・太田昭宏の東京12区からの出馬、を強くにおわせたのである。自らの党首の退路を断つような発言を独断ではできない。鳩山は「小沢さんは自分の命をかけている」とまで党首の心境を形容した。
しかし、君子危うきに近寄らずは、政治の基本。あえて身の危険をさらしてまで奇策を弄するとは、党首として適切な判断だろうか。まず、仮に東京12区から出るとしても、いくら太田の基盤が盤石ではないとはいえ、相手は公明党代表だ。当然自民党も全力を挙げて太田を助け、小沢つぶしの連合軍ができるだろう。落下傘候補で舞い降りて、自らの人気だけで当選できる、と思っているのだろうか。小沢の地元は驚愕していると言われ、県連幹事長も「本当ならすぐにも準備が必要」と述べている。地元は知らされていなかったのである。既に選挙戦は始まっており、急きょ事務所を作ってゼロから運動を始めて、間に合うのだろうか。しかもまだ最終判断していない。
さらに、党首として自分の党の候補応援の義務が果たせるのか。盤石の岩手4区であったからこそ、選挙区に帰らずに全国遊説ができたが、国替えではそうはいくまい。党首が自分の選挙区にかかりっきりにならざるを得ないのである。加えて大局を見れば、今回の総選挙は端的に言って、「麻生首相」か「小沢首相」かを決める選挙と言ってよい。民主党内の体制も、選挙準備も、議員心理も、それを前提に動いている。ところが政治的に「小沢落選」の可能性が出て来たとすれば、「政権を取りに行く選挙」という前提も揺らぐことにならないか。トップの地位が危ういかもしれない選挙が、新聞の言うように「党内引き締め効果」をもたらすだろうか。 本人は背水の陣を敷いて、党内の引き締めを狙うにしても、その狙いが実現するかどうかは別問題なのである。
ひょっとしたら、小沢は首相のポストに固執していないのではないか、とまで思いたくなる。首相となれば、病気で医者に止められている本会議どころか、予算委員会にも釘付けになる。心理的負担は大きいはずだ。自分も安倍晋三、福田康夫の辞任と同じ運命をたどるかもしれない、との不安が胸をよぎっていないだろうか。いずれにしても小沢の心理は、小沢のみの知るところであるが、ここまで政府・与党を追い詰めながら、小沢戦略は最後の詰めに当たって奇策・詭道のにおいが濃厚になってきた。小沢は鳩山発言を「いろんな憶測が飛んでいる」と“憶説”にしたうえで「まだ決めていない」と強調しているが、火のないところに煙は立たない。とにいかく不可解な言動である。
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