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2008-10-10 08:57
いまは「政局」より「経済危機対策」のとき
杉浦正章
政治評論家
日本の首相の権限というのはつくづく強力なものである、ことを再認識する今日このごろである。なぜかといえば、首相・麻生太郎は自らも作り出してきた解散・総選挙のとうとうたる流れに、一人さおさして、それに半ば成功し始めているからである。解散引き延ばしへの急旋回といい、折からの金融危機を最大限に活用する判断といい、直感力は歴代首相でも田中角栄に匹敵するかも知れない。「解散」でヒートアップしてきたマスコミも、このところトーンダウンしてきている。「解散より経済・金融対策」という麻生の立場ももっともである。拙稿が主張してきたように、ここは麻生の「解散回避」への主張に耳を傾け、当面与野党とも政治休戦し、“政局”から離れて国家の難局に当たるべきではないか。
日本の首相は米国の大統領に匹敵する権限がある、とは昔から言われてきたことだが、確かに首相がクビになるのは、総選挙に負けたときか、内閣不信任案が可決されたときしかない。麻生の前の二人の首相は自ら辞めたのであり、特殊事情だ。その首相がいったん腹を固めると、自ら決めた冒頭解散の流れすらストップをかけることができる。文藝春秋の麻生論文は、明らかに冒頭解散を考えていたことを物語る状況証拠だが、麻生はその辺の事情を記者団に「就任時とはだいぶ予定が違ったとは思っている。経済に与える影響は想像していたよりもはるかに大きくなっている」といけしゃあしゃあと、面憎いまで平気なそぶりである。「予定が違った」とはよく言ったものだ。「総理大臣の頭の中には解散の時期がはなから決まっている、という前提ですべて考えるから間違える」と一部新聞の暴走にもくぎを刺した。
麻生の姿勢は恐らく自民党が「惨敗」状態から脱するまでは変わるまい。一生懸命の姿を国民に見せれば、潮目は変わると読んでいるのだろう。その麻生の解散回避戦略は、まるで戦国武将が天の時地の利を活用するように、折からの政治・経済状況の“フル活用”に尽きる。まずとっかかりは補正予算の成立。これにめどが付くと新テロ対策特別措置法改正案の成立。民主党も解散への誘導をはかるため、猛反対であった同法案まで容認すると、ついには「補正予算案は8月時点のもので、それ以後の金融状況の変化が経済にどういう影響を与えるか不透明になってきた」と追加景気対策を指示した。民主党も麻生ペースに乗せられ、“仏の顔も三度”で怒り心頭だろうが、打つ手は限られている。政党に解散権はない。
まさに麻生ペースでことは進んでいる形だが、自民党内でも選対委員長・古賀誠が「今のような不安な景気、経済状況では到底、衆院解散・総選挙は戦えない」と言いだし、町村派代表世話人・町村信孝も「解散は来年の4月とか9月になる可能性がある」との見通しを述べている。折からウオール街も兜町も株価がただ事でない下げ率を示しており、恐慌状態の米欧に比べ金融危機の直撃を受けていない唯一の先進国・日本のリーダーシップへの期待も大きい。日本は欧米に比べて“負(ふ)の一人勝ち”の状況にある。その日本の首相が政争に明け暮れて、解散・総選挙で2か月の政治空白を作ったとなれば、今度は日本発の株価大暴落につながる、ことは火を見るより明らかであろう。与野党も、マスコミもここは冷静になって、大局を見るべきだ。一時“政治休戦”をして、与野党一致で金融危機とその実体経済への影響を食い止めるべきだ。小沢一郎も積極的に党首討論に応じて、問題の核心を論議し、しばらく“政局”を忘れてもらいたい。
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