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2008-11-04 11:16
「なんでもあり」のカダフィのリビア外交
本条 有樹
研究員
リビアの革命指導者ムアンマル・アル・カダフィは、10月31日から3日間の行程で、冷戦期の1985年に訪ソして以来初めてモスクワを公式訪問し、メドベージェフ大統領やプーチン首相らロシア首脳との会談に臨んだ。一連の会談で、リビアは現在保有する旧ソ連製の武器を刷新するべく総額20億米ドルに上る戦闘機や対空ミサイル等の購入を約束した他、リビアの港湾の一部をロシア海軍基地として提供する方向で協議を進めたという。今回のカダフィの訪ロに先立ち、今年の4月には、プーチン大統領(当時)が同じく冷戦以降初めてリビアを訪問し、その際、リビアがロシアに負っているソ連時代からの債務約45億米ドルを帳消しにするとともに、民生用原子力協力を含む各種エネルギー協力や原油採掘、軍事技術、インフラ整備などの分野で両国が協力することの合意にこぎつけている。
リビアは、世界有数の原油埋蔵量のほか、天然ガス等豊富な天然資源を有しているが、久しく反欧米・反イスラエルの最右翼に位置し、テロ支援国家として国際的にも孤立していた。特に1988年のパンナム機爆破事件を機に国連に経済制裁を課せられてからは国内経済は疲弊を極めた。その後、核開発の全面放棄やパンナム機爆破事件の容疑者引渡しに応じるなど国際社会に対する態度を軟化させ、国連の経済制裁は解除され、アメリカからもテロ支援国家指定から外されたことで、国内経済の状態も改善されつつあった。そしてこの9月、およそ半世紀ぶりに米国の国務長官がリビアを公式訪問した。リビアの国際的孤立は過去の話となりつつある。その一方でリビアは、ロシアとの関係も着々と強化しているのだ。これまでとは一味違うリビアの動きであるが、これはいったい何を意味するのか。
ロシアはといえば、周知の通り、先のグルジア侵攻に見られるように、エネルギー価格の高騰を背景とした急激な経済成長を追い風にして、「国際社会ものともせず」と言わんばかりの強硬な帝国主義的姿勢を周辺地域に対し示している。今回の「グルジア事変」に対しては、アメリカも欧州諸国も効果的な対応を迅速にとることが出来ず、ユーラシアの秩序安定の見通しは立たないままである。カダフィは今回のプーチンとの会談の席で、「(リビアとロシアの)二国間関係の発展は国際情勢にとってプラスの要素となる。この関係は地政学的な均衡を再確立することに資するものだ」と語ったという(11月2日付け『トリポリ・ポスト』)が、これはリビアが「新・冷戦」の世界においてロシア側につくとの意思表明をしたと考えるべきなのだろうか。
むろん、そうではないだろう。むしろリビアは、小国として国際情勢の揺らぎの中で巧みに身を処すべく、生き残りのためには組む相手を選ばないとのリアリズムの表明をしたと捉えたほうがいいのではないか。欧米をあからさまに敵に回すわけでもなく、かといって欧米世界に忠誠を誓うわけでも決してなく、あらゆる大国との関係強化の可能性を確保しておきたいとの狙いがあるように思える。今後、リビアのような小国は、特に豊富な天然資源をもった小国は、「何でもあり」の予測不可能性を武器にして、国際社会の中で意外にやっかいな存在としてはびこることになるかもしれない。今回の訪ロ中、カダフィーは、クレムリンの傍にベドウィン・テントを張って寝泊りしたという。遊牧民のアイデンティティを何よりも大切にしているのだ。「世界の中の遊牧民」、そんなモチーフがふと頭をよぎった。
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