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2008-11-11 04:31
田母神発言否定は、長期的には民主主義の崩壊に通ずる
玉木 洋
大学教授
これまでの日本のマスコミ(朝日新聞等)の同種事案(栗栖発言、永野発言、「侵略」記述に関する教科書問題等々)における対応を見れば、朝日新聞的見解に反対する要人の発言に対しては、その発言内容が真実に基づくものか否か、積極的に新たな政策を推進する意図か、単なる質問への返答か、などを問わず、さらには朝日新聞的見解が事実として正しいかどうかにもかかわりなく、その種の要人発言が徹底してマスコミにより批判され、これが中韓の批判をあおり、そして政治外交問題化していく、ということの繰り返しであった。
そのような事実から見れば、即座の更迭はその種の問題の噴出を予防し、麻生政権に無用の痛手を招かなかったという意味では、賢明な対応であったかもしれず、その意味では杉浦氏の見解に賛同できる面はある。国内のマスコミの大騒ぎに起因する問題を予防する意味で、したがってそれに伴う中韓との摩擦も生じうる可能性を予防する意味で、賢明であり、得策であった、と言いうるということである。しかし、得策であったということと、それが正義に基づく正当なものであったということは、別であろう。決定した政策に従う必要があることと、事実と論理に基づいて常によりよい道を探る議論を行うことは、別である。さらに、本件田母神論文は、具体的な政策というよりは、総理の(公式のものとして一定の意味を持つとはいえ)「談話」に過ぎないものに反する内容だったということである。
さらにいえば、村山内閣という特殊な政治的意味を持つ内閣の、特殊な状況下における談話であり、さらにその内容事実を冷静に分析するならば、根拠は大いに疑わしく、むしろ田母神論文の方により正当な根拠があると見られる部分も少なくないのである。具体的な政策に反したわけでもなく、論文という形で冷静な議論を行っただけの、このような言論を根拠に職を奪われるということこそ、むしろ言論の自由の抹殺であり、人権弾圧であり、民主主義の根幹の破壊であるとさえ言えよう。論文の内容を議論することなく、意見の異なるものを過剰にたたくマスコミの方に本来の問題があり、田母神論文の内容は、むしろこれを機に真剣に議論されるべき内容であると考える。
冒頭で、更迭は「賢明であり、得策であったといいうる」と書いたが、それはマスコミの今日の(誤った)あり方を前提としたものであり、かつ短期的に得策であったということであり、今後田母神論文のような議論が自衛官によって全くなされえないということになり、さらには日本国民全体としてこのような議論がなされえないというようなことになれば、今回の更迭によって、短期的にマスコミの騒ぎや中韓からの批判を避け得たとしても、また一時的に麻生内閣の危機を避け得たとしても、その更迭は、日本の民主主義の崩壊、そして日本の没落という、より本質的な危機を招くきっかけとなるという可能性は否定できないように思われる。
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