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2009-01-28 18:55

オバマ政権発足と期待される核軍縮の進展

堂之脇 光朗  日本紛争予防センター理事長
 アメリカの軍縮問題月刊誌『Arms Control Today』の最新号(2008年12月号)でオバマ大統領が核軍縮政策を一問一答形式で論じている。大統領に選出される直前のインタビューではあるが、方向性は明確に打ち出されている。「最大の目的は核兵器が使われないようにすることであり、核兵器保有もそのためである。新しい核兵器の開発は許可せず、核兵器の究極的廃絶を目標とし、CTBT(包括的核実験禁止条約)の早期批准を上院に働きかける。他方、今日の最大の脅威は核兵器物質がテロリストの手に渡ることで、その防止のための予算を増やし、PSIの強化などで他の諸国とも協力する。ロシアとの間ではSTART Ⅰが本年末に失効する前に実質的延長に合意する」等々である。当然のことながら、「核軍縮の失われた10年」を取り戻したい、との米国民主党の意気込みが伝わってくるようである。

 興味深いのは、この同じ月刊誌にセルゲイ・キスリャック新駐米ロシア大使のインタビュー記事も載ったことである。駐米大使の前は外務次官であったが、1996年12月には京都で4日間開催された核軍縮セミナーにロシア外務省軍縮局長として来日したこともある。その他にも何度か会う機会はあったが、私はこのセミナーの議長をつとめたのでよく記憶している。アメリカのジョン・ホラム軍縮庁長官(当時)との間で理路整然とひけをとらぬ論戦を展開し、それでも「ねあか」で好感のもてる人柄が印象的であった。当時もアメリカは民主党政権で、核軍縮への期待が大きく高まった時期であった。それだけに、今回のオバマ政権発足に先立ってのキスリャック大使の赴任は、さすがにといった感じである。

 なお、1996年はクリントン大統領が第2期の大統領選挙で勝利をおさめた年であったが、その前年にはNPT条約が無期限延長され、上記の京都セミナーはわが国が同条約の強化された再検討プロセスを成功に導くために企画、開催したものであった。1996年といえば、核軍縮に関するキャンベラ委員会報告も発表され、CTBT条約も署名されるなど、核軍縮への期待が大いに高まった年である。しかし、その後1998年にはインド、パキスタンによる核実験があり、1999年には米国上院で共和党の反対によりCTBTが批准されないなど、民主党政権は屈辱的な挫折を味わった。失敗を繰り返すことは避けたいであろう。

 キスリャック大使は上記の記事で、アメリカによる東欧諸国へのミサイル防衛施設の配備に強い懸念を示しながらも、START Ⅰの年内の実質的延長には賛成としている。他方、オバマ大統領は、来年5月のNPT運用検討会議を前に、CTBT条約批准に意欲を示している。核軍縮への機運は十分にもり上がっている。核軍縮は米国以外の核兵器国の意向も重要であり、仮に米・露による核兵器削減が進んだとしても、他の核兵器国や事実上の核兵器国を取り込むことができなければ、問題は解決しない。したがって、非核国であるわが国の貢献の余地は少ないように思われがちである。しかし、オバマ大統領も強い関心を示しているCTBT条約の発効とか、PSIの強化となると、わが国が従来から積極的に役割を果たしてきた分野である。また、昨年9月に川口元外相と豪州のエバンス元外相を共同議長として発足した核不拡散・核軍縮に関する国際委員会も来年のNPT運用検討会議を前に報告書をまとめるとしているので、わが国による貢献の余地は決して少なくないであろう。
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